【中国を読む】中国・不動産事業のデジタル化が急進 “場”から生まれる付加価値提供
日本の人口は減少し続け、それとともに国内の不動産事業は縮小する可能性が高い。事実、不動産新築販売はここ数年減少し続けている。また、消費者の価値観・働き方も多様化し、スペースシェアやワーケーションなどが普及しつつある。つまり、不動産事業において、単純な“場”の提供・管理はその価値が低下していく可能性が高く、その“場”から生まれる付加価値を提供するサービス業への転換が求められている。(野村総合研究所・栗山勝宏)
顔認証で鍵は不要
このサービス業化に加え、デジタル技術の発展は、不動産業界におけるプレーヤーを変化させつつある。デジタル技術の発展により不動産事業者は必ずしも不動産(資産)を持つ必要がなく、近年は顧客接点やデータを持つ事業者(テック系企業)が不動産業界の主要プレーヤーとして台頭してきている。こうした動きは日本でも進展しているが、とりわけ中国ではテック企業を中心に、不動産事業のDX(デジタルトランスフォーメーション)・サービス化が急進している。
中国IT大手のアリババグループは、2018年12月に浙江省杭州市にて「菲住布渇酒店(FlyZoo Hotel)」というホテルをオープンした。このホテルの最大の特徴は、あらゆる認証に顔認証を採用しているところである。
従来のホテルは、部屋のドアやエレベーターの行き先ボタンのロック解除を行うために、カードキーなどの物理的な鍵を携帯する必要があった。宿泊者は常に、この鍵の紛失や盗難のリスクにさらされてきた。
このホテルでは、部屋のドアなどに付いているカメラに顔を向けるだけでロックを解除できる。滞在期間中、鍵の紛失や盗難を心配するストレスから解放される体験を、宿泊者に提供している。その他、ロボットによるルームサービス配送や自動チェックインなども実装されており、宿泊者が最先端技術に触れる楽しさも提供している。中国人の宿泊を想定して設計されたチェックイン時のID読み取りや宿泊者向けスマートフォンアプリなどは、外国人にとって使いづらい面が残っているが、宿泊者の大半を占める中国人にとっては、本来の目的である宿泊を享受した上で従来のホテルにはない体験を得ることができる。
中国のマンション管理会社である深セン市保利物業は自社が管理するマンション居住者向けにスマホアプリ「田丁」を提供している。同アプリ上では、管理費の支払いや問い合わせはもちろん、スマート化されたマンションでの鍵の開閉や駐車場の料金確認を行うことができ、マンション居住に必須のアプリとなっている。また、保利物業のマンション居住者は、アプリ上での生鮮食品の購入、クリーニング・家電修理の依頼ができるなど、暮らしに関わるサービスをワンストップで利用できる。
すなわち保利物業は、従来の「マンション管理サービスという価値」および「そのデジタル化による入居者体験」の提供にとどまらず、「住まいの上に成り立っている入居者の生活に一歩踏み込んだサービス」という新たな価値を提供することに成功している。このようにデジタル化されたマンション居住体験に慣れ親しんだ人々にとっては、もはやマンションの購入は単なる「住まいを買う行為」ではなく「暮らしを買う行為」だと捉えられている。
新たな価値で稼ぐ
不動産事業のDX・サービス化は、従来の“場”としての不動産価値を高めることはもちろん、新たな価値を生む有料サービスの提供などにより、不動産事業者は新たな収益源を得ることができる。また、さらなる展開の方向性として「不動産のサービス・プラットフォーム化」がある。サービス提供の仕組みをオンライン上で外部に公開し、外部のサービス企業が不動産利用者やそのデータにアクセスできるようにすることで、外部の力を借りながらサービス利用者の多種多様なニーズに対応し、プラットフォーム上で提供する顧客体験を進化させていくことができる。こうした変革期の不動産業界において、日本が中国の先行事例から学ぶ点もあるのではないか。
【プロフィル】栗山勝宏
くりやま・かつひろ 1998年大手システムインテグレーター入社、2007年野村総合研究所入社。産業ITコンサルティング二部グループマネジャー。専門は業務改革を伴うシステム上流工程・導入支援、ICTを活用したCX(顧客体験)改革・新事業創造など。中小企業診断士。神奈川県出身。
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