【数字から見えるちば】「しごと」は良好 「まち」「ひと」課題 地方版総合戦略の進捗状況 ちばぎん総研研究員・矢野泉
政府が全国の自治体に対して「人口ビジョン」と「地方版総合戦略」の策定を命じてから5年が経過した。今年度は地方版総合戦略の成果を測る最終年度となっている。
千葉県におけるこの5年間の地方創生の成果はどうなっているであろうか。
当社では、県内54市町村に対して、総合戦略の「まち」「ひと」「しごと」分野別の進捗(しんちょく)状況についてアンケートを実施し、その結果を全国平均(内閣府が公表)と比較した(表)。表では県内市町村による総合戦略の進捗度が全国を上回る場合は◎または〇、下回る場合は△または×と評価している。
千葉県全体では「しごと」の進捗度で全国を上回った一方、「まち」「ひと」では、全国をやや下回った。
分野別・地域別にみると、まず「まち」の分野では、ほぼ全ての地域が全国を上回り、とりわけ、人口増加テンポの大きい東京湾岸地域の水準の高さが目立つ。細かくみると、「まちづくり」では、空き店舗を活用したにぎわい創りなどで先行するアクアライン・圏央道沿線地域や東京湾岸地域が全国を上回った。「交通ネットワーク」でも、成田空港周辺・印旛地域(圏央道の神崎IC~大栄JCT間開通)や東京湾岸地域(外環道千葉県区間開通)で全国を上回った。「地域コミュニティ」では、地域包括ケアシステムが進む東京湾岸地域(千葉市幸町団地など)や常磐・TX沿線地域(柏市豊四季台団地など)が全国を上回った。この間、銚子・九十九里・南房総地域では、全ての項目で全国を下回る厳しい評価となった。
「ひと」の進捗度は、県内全地域で全国を下回った。「移住・定住」では、各市町村が策定した出生数や転入者数などの数値目標(KPI)で、高い目標値を設定した先が多かったことが影響している。「教育・文化・スポーツ」では、アクアライン・圏央道沿線地域が唯一全国を上回ったが、里山・トロッコ列車を活用した文化イベントやアクアラインマラソン大会の活況などが牽引(けんいん)した。
「結婚・出産」では、子育て世代の流入が続く常磐・TX沿線地域が全国を大きく上回った。「子育て」の評価は、待機児童数の減少度合いが影響しているとみられるが、成田空港周辺・印旛地域の評価が特に高くなった。
「しごと」の進捗度はほぼ全地域で全国を上回った。「農林水産業」は、郡部を中心に全国を上回ったが、これは東京圏の人口増加から県産農産物の需要が高まっていることなどが背景にある。
「観光」も全国を上回る地域が多かったが、成田空港周辺・印旛地域では、成田市へのインバウンド観光客の集中から全国を下回り、外国人客の周遊に課題を残した。「経済産業」では、人口増加が続く都市部を中心に全国を上回った。
来年度には第2期総合戦略が始まるが、第1期の反省も踏まえて、以下の点に留意して策定を進め、県内各地域で地方創生が実を結ぶことを期待したい。(1)地域の強みのさらなるブラッシュアップおよび「選択と集中」の徹底(2)地域の持続可能性を高める交通インフラ整備の推進(3)広域連携による効果的なまちづくり(4)KPIの適切な設定とPDCAサイクルによる確実な検証および事業などの柔軟な見直し。
(寄稿)
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