英EU離脱Q&A 「一国主義」の先触れ…最終決着はこれから

 
30日夜、英国のEU離脱を前に、英国旗と同じ赤白青にライトアップされたベルギー・ブリュッセルの広場グランプラス(共同)

 英国の欧州連合(EU)離脱問題は31日の離脱で大きな区切りを迎える。ただ最終決着というわけでは、まだない。世界を翻弄してきた離脱問題の経緯や今後の焦点を解説する。

 Q なぜ英国はEUを離脱するの?

 A EUに至る欧州統合は第2次世界大戦後、仏独などが恒久平和を目指して始まった。英国は遅れて参加したが、主に経済的利益が目的で、国の主権をEUに委ねる統合に懐疑論が根強かった。だから仏独などのように単一通貨ユーロを使っていない。2004年にEUに入った東欧から移民労働者がやってきて、その後、経済悪化で雇用情勢が悪化すると、移民やEUへの不満が増大した。16年6月にEU離脱の是非を問う国民投票が行われ、離脱賛成が半数を超えた。

 「切り離し」難しく

 Q 英国の離脱決定がもたらした衝撃は?

 A 初の加盟国の脱退はEUの信頼を大きく損なった。折しも経済格差への不満が高まり、中東などの難民・移民が大量流入していた欧州では、反EUのポピュリズム(大衆迎合主義)政党を勢いづかせた。米国では同年秋に「米国第一」を掲げ、英国のEU離脱を支持するトランプ氏が大統領に選ばれた。離脱決定はグローバル化への反発を背景に、国際協調から「一国主義」へ潮流が変わる先触れの出来事だった。

 Q 離脱まではとても難航したようだが

 A その通りだ。離脱日は当初予定の19年3月末から3回延期された。離脱条件の交渉では、英領北アイルランドと陸で接する加盟国アイルランド間の国境で、検問などを設けず、自由な往来をどう保つかが最大の難問だった。宗教や民族に根差した過去の対立を再燃させないためだ。

 英国がEUと何の合意もないまま離脱すれば、EUとの貿易で関税が復活するなど、企業活動や市民生活が混乱するところだったため、離脱期限が迫る度に世界で緊張が高まった。人やモノが自由に国境を越えられるほど社会や経済が融合されたEUは、いわば欧州限定の高度な“グローバル化世界”をなす。英国の離脱はその「切り離し」の難しさを示した形だ。

 「民意」混迷に終止符

 Q 英国政治も混乱した

 A 英国ではメイ前首相下でEUと合意した離脱協定案が、下院で3度も否決された。野党だけでなく、与党保守党内でも意見の対立が先鋭化。「議会制民主主義」発祥の英国政治の混迷が民主主義への信頼を損ないかねないと懸念されたが、後任のジョンソン首相が協定案修正に成功した。昨年12月の総選挙では大勝し、最後は「民意」が政治の混迷に終止符を打った。

 Q なぜ最終決着ではないの?

 A 離脱協定案はあくまで離脱の条件を定めたもので、将来の経済関係などの具体的な交渉はこれからだ。従来の経済関係が続く20年末までの「移行期間」はそのために設けられた。この間、市民生活や企業活動に変化はないが、英国はEUのルールに従い、EUに予算拠出も求められる。一方でEUの意思決定には関与できず「完全な離脱」とはいえない状態が続く。

 「合意なき離脱」なお

 Q 今後の交渉の焦点は?

 A 英国、EUは自由貿易協定(FTA)の締結を目指すが、条件などをめぐる交渉は容易でないとみられる。移民受け入れなど他の課題も多い。EUは移行期間内の包括的合意は難しいとし、移行期間延長を排除しないが、ジョンソン氏は延長拒否の構えだ。延長申請の期限は6月末。延長せず、FTAも年内に発効できなければ、英EU間では関税が復活し、経済活動に支障が出る恐れがある。「合意なき離脱」の懸念は完全には消えていない。英国はEUだけでなく、日本と米国ともFTA交渉を進める方針だ。

 Q 経済関係以外では?

 A 英国とEUは外交・安全保障や治安をめぐる協力のあり方も交渉する。米国と中国、ロシアという大国がせめぎあう今の国際情勢下で、米国との関係に齟齬(そご)をきたす欧州の影響力低下は著しい。イラン核合意や気候変動対策、自由貿易の推進など、英国とEUが共有する利益は多く、新たにどのような協力関係を築くかは、双方にとって重要であり、近年、欧州との関係強化を図る日本にとっても関心事となる。(宮下日出男)