移住者獲得競争にも“格差” 「限界集落」対策効果上がらず
地方の人口流出が加速している。65歳以上の住民が半数以上を占める「限界集落」は全国2万カ所で、将来は無人化して消滅する恐れもある。専門家は、企業が東京に集積する構造を変える必要があると指摘。移住者で人口が増えた自治体もあるが、呼び込みに苦労している地域もあり、格差が生じている。
企業の都心集中顕著
新潟県小千谷市の山間部にある首沢集落。コイの養殖が盛んで、1970年には30世帯余りが暮らしていた。ところが職を求めて若年層が流出し高齢化が進行。雑草が茂った空き家、空き地が目立つようになった。
現在残る5世帯18人の半数近くが65歳以上。市中心部と行き来するバスの運行本数も減り、会社員川上里美さん(48)は「今は車で買い物できるが、老後はどうなるのか」と不安を漏らす。
過疎地域を対象とした総務省などの調査で、2019年4月時点の限界集落は2万349と、前回15年4月の調査から約6000増えた。住民全員が65歳以上の集落は956に上る。こうした集落は森林や道路の管理、冠婚葬祭など互いに協力する機能が低下、10年以内に消滅が見込まれる集落もある。
前回調査からの4年間は、政府が東京一極集中の是正を掲げて対策に力を入れた時期と重なり、効果が出ていないのは明らかだ。
一極集中の要因の一つは就職。19年の東京圏の転入超過数は3月だけで全体の47%を占める。年代別では20~24歳が突出して多く、就職で都会へ引っ越す人が多くなるためとみられる。
東京圏への企業の集中度は年々強まっており、16年時点で大企業の50.8%が東京圏に立地する。都心部への偏りが顕著で「条件の良い仕事を求めて人が集まる」(政府関係者)。
日本商工会議所によると、大学生に人気の職種は営業企画、商品開発だ。しかし、この分野の就業者数が増えているのは東京。地方で伸びている職種は医療・福祉介護で、若者の希望とはずれている。
新産業育成必要だが
企業の地方移転に対する優遇税制もあるが、日本総合研究所の井上岳一氏は新産業育成の視点が重要と訴える。インターネットや交通網の発達により地方での起業は容易になっており「地方移転した企業に規制緩和を認め、自動運転や遠隔医療など地域の課題解決に役立つ事業展開を後押しすれば、挑戦を求める学生も集まる」と提言する。
移住者が増えている自治体もある。90%以上が森林の岡山県西粟倉村では、スギやヒノキの加工販売を始めると、事業を知った木工作家が移住した。村が起業支援を強化し、お試しで居住できる仕組みをつくったところ、15年からの3年間で林業関係や幼児向け塾など15社が創業した。今では人口約1500人のうち移住者が1割。村の担当者は「移住者増加で人口減は緩やかになった。起業の流れを止めず、人材育成を進めたい」と意気込む。
北海道浜中町、鹿児島県屋久島町なども近年、三大都市圏からの転入超過が目立つ。ただ「移住者獲得は競争。抜きんでた産業がなく、簡単には来てくれない」(佐賀県武雄市)と悩む自治体もあり、国土交通省は「過疎地域の中でも格差が出ている」と分析している。