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B-1優勝グルメの厚木「シロコロ」消滅危機 宙に浮く商標権

 かつて「B-1グランプリ」で優勝した神奈川県厚木市のご当地グルメの豚ホルモン料理「シロコロ」が“消滅”の危機にひんしている。商標権者らが在籍する団体が昨秋、解散し、名称の利用許可「認定証」も4月以降は更新しないことを決めているためだ。背景に市などと商標権の売買をめぐる“すれ違い”があったためだが、今後は提供店が「シロコロ」の名称を使えなくなる可能性が高く、市内の提供店関係者らは困惑している。「シロコロ」をまちおこしに活用してきた市の戦略にも影響を与えそうだ。

「シロコロ」は七輪で焦げ目がつくまで焼くのがおいしいという=「千代乃」店内
「シロコロ」ののぼりも使えなくなると話すホルモン焼き店「千代乃」店主の島津英俊さん=厚木市

 「シロコロ」の商標権を持つのは、市民らの有志団体「厚木シロコロ・ホルモン探検隊」(昨年9月末解散)の中村昭夫元代表(56)と小野塚徳博元副代表(64)の2氏。これまで市などとタッグを組み、「シロコロ」のPRに努めてきたが、昨年秋に団体を解散。商標権を市に売却することを目指してきた。ただ、交渉で折り合いがつかず、市が買い取りを見送ったため、商標権の行方は宙に浮いている。

 ■市外からの客が…

 「認定証」が更新されないため、4月以降、店舗では「シロコロ」の名称を使えなくなる可能性が高い。中村元代表らは現在、東京都内の民間企業と売買交渉を進めているというが、売却先に認定制度などを引き継ぐ意思があるかどうかは「定かではない」(中村元代表)としている。

 「シロコロ」の名称の利用許可がなくなれば、提供店はメニューと看板の書き換えや、のぼりを下ろすなどの対応を迫られる。売り上げへの影響も予想され、関係者らは一様に困惑や不安の声を上げている。

 ホルモン焼き店「みんなの母さん おひさま」(同市旭町)の鮫島さち子代表(69)は「インターネットで検索し、市外からも多くの人が来てくださっている」と話し、来客の減少を危惧。「『シロコロ』の名前があって初めて違いが認知され、全国に通用している側面もあるだろう。今後はどうすればいいのか」と不安を隠さない。

 ご当地B級グルメの祭典である「B-1グランプリ」でゴールドグランプリを受賞した際、タレを提供したホルモン焼き店「千代乃」(同)の島津英俊店主(68)は「おいしい焼き方や食べ方、タレの味を研究し、みんなで作りあげてきた流れが途絶えるのは残念」と嘆き、「今後は『白ホルモン』の名称で、味で勝負していくしかない」と半ばあきらめ顔だ。

 ■対応に追われる市

 市も対応に追われている。市はふるさと納税の返礼品として「シロコロ」の名称を冠したホルモンのみそ漬けやせんべいなどを用意している。市は4月以降、商品名やサイトの記載を「厚木ホルモン」などに変更して継続する▽返礼品から除外する-のいずれかを選択しなければならないといい、事業者や広告代理店と検討を進めている。

 観光ガイドやポスターなど、市発行の印刷物の変更も余儀なくされている。在庫は3月末まで配布し、以降の使用分は「刷り直さなければならない」(市担当者)。市が名産品を「あつぎ食ブランド」(愛称「あつぎOECフード」)として認定し、紹介している食品群からも「シロコロ」を除外する方向だという。

 市観光振興課の担当者は「(商標権の売買交渉で)折り合いがつかなかったことは残念。引き続きシロコロの名称を使えることが理想だが…」と多くを語らない。一方で、「成り行き次第では、売却先の企業などと交渉することになるかもしれない」とも話し、静観する構えだ。

 市を象徴するまでに名をとどろかせ、地域振興にも貢献してきた「シロコロ」。その“高名”がこのまま市内から消えゆくのか、動向が注目されている。

(外崎晃彦、写真も)

 【厚木の豚ホルモン焼きと「シロコロ」】

 水に恵まれ、養豚業が盛んに行われてきた神奈川県厚木市の名物料理。豚のホルモン(臓物)のうちの大腸部分「シロ」を焼くもので、一般的な焼き肉店では平たい薄切りで提供されるのに対し、厚木周辺では古くから輪切りにした筒状で焼く習慣がある。焼くと丸くコロコロとした姿になることから、「厚木シロコロ・ホルモン探検隊」の2氏が「シロコロ」と命名し、商標登録。市の名物料理として普及に努めてきた経緯がある。平成20年に行われたご当地B級グルメの祭典である「B-1グランプリ」でゴールドグランプリを受賞し、その名を全国区に広げた。「シロコロ」を目当てに訪れる市外からのファンも増え、市への経済効果も大きい。