【道標】市場混乱収まらず金融緩和の限界露呈 局面打開へ大胆な財政の出番
日本銀行は16日、金融政策決定会合を前倒しして開き、追加金融緩和策を決めた。会合の前倒し開催は初めてで、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済の停滞や市場の混乱に対応するのが狙いだ。米国の中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)による3月に入って2度目の緊急利下げに追随する形となった。
金融機関の収益悪化をはじめとした副作用が懸念されるマイナス金利の深掘りは見送った。
一方、企業が発行するコマーシャルペーパー(CP)と社債の購入などによる企業金融の支援策や、上場投資信託(ETF)の購入枠倍増を柱とした市場安定化策を決めた。いずれも事前の予想通りで、大きな「サプライズ(驚き)」はない。
今回の緩和は景気や物価の下振れリスクが高まる中で、特に中小企業に対する信用の収縮を抑制するのが目的だ。日米欧の主要中銀の「協調緩和」を演出することで、連鎖的な株安を通じた金融環境の引き締まりに歯止めをかける狙いもあったと考えられる。
ただ、その後も株価、金利の乱高下といった市場の混乱は収まらず、逆に緩和の限界を露呈する結果になっているように見受けられる。
バークレイズ証券の予測では、一連の金融政策対応にもかかわらず、2020年の世界全体の成長率は1.8%(19年実績は3.2%)と、大きく鈍化する。先進国は0.0%(同1.7%)とゼロ成長に陥る。日本はマイナス1.6%(同0.7%)に落ち込み、世界的に景気が失速する可能性が高い。
日銀のみならずFRB、欧州中央銀行(ECB)も今回、信用収縮の抑制策を採用した。半面、市場関係者らが予想する物価上昇率(期待インフレ率)が低下傾向をたどり、金融機関のバランスシート調整(資産と負債の不均衡是正)も進行する状況の下では、信用創造機能の本格的な回復につながる可能性は低い。
日米中銀は緊急緩和という奇策に出たが、市場の不安を払拭するには至らず、マーケットは安定とは程遠い状況にある。FRBの追加利下げによるゼロ金利政策の復活に象徴される通り、追加緩和の手段が枯渇しつつある点も、市場の不安心理を助長している。
日銀を含む主要中銀は「必要に応じ、躊躇(ちゅうちょ)することなく」追加緩和策を発動すると繰り返している。ただ景気、物価の浮揚効果や市場を安定させる効果について、マーケットが「信認」を共有しない限り、期待インフレ率の低下を加速する結果になりかねない。
主要中銀による協調緩和と市場の反応が示唆しているのは、追加緩和決定後にパウエルFRB議長とラガルドECB総裁が強調したように、協調的な財政拡大が今後、鍵を握るという点だ。
日欧中銀のマイナス金利政策を含む超低金利策は長期化し、緩和の効果が薄れる中、局面を打開し得るのは大胆な財政出動をおいて他にない。
日本は20年度予算案を19年度補正予算と合わせた15カ月予算として編成し、自然災害からの復旧・復興策を盛り込んだ経済対策を反映させた。
さらに、感染拡大による景気悪化に対応するため緊急経済対策策定の検討に入った。実質的には、同対策に必要な資金の多くを日銀が国債購入などで供給することになる。欧米諸国の財政・金融政策も同様の方向に進みつつあり、日本は政策運営面で一日の長があると言えるだろう。
【プロフィル】山川哲史
やまかわ・てつふみ バークレイズ証券調査部長。1957年新潟県生まれ。一橋大経済学部卒。日銀などを経て、2010年6月から現職。米ブラウン大で経済学博士号取得。専門は日本経済、金利・為替分析など。
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