世界中で健康のために戦っている今こそ パンデミックを“改革”の好機に 

 
トルコのチャブシオール外相=東京都千代田区(飯田英男撮影)【撮影日:2018年11月06日】

 人間は、激変をもたらす事態に直面すると、二度と元の世界に戻れないと思いがちな生き物だ。世界史には、今回と同様の痛みを伴う転換期が無数にある。実は何年も前から、世界的な感染症拡大が破壊的な事態に発展する可能性が警告されてきた。

 豊かで安全な環境にいる人々は生活が崩れることなどないと思っていたかもしれない。しかし、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は現実であり、どんな人も影響を免れることはできない。

 ウイルスは南極を除く全ての大陸に拡大した。世界人口の3分の1以上に外出自粛が呼びかけられ、衝撃的な数の犠牲が出ている。経済的ダメージも甚大だ。反省と同時にリーダーシップを発揮し、行動を起こすときだ。

 世界のシステムは、新型コロナの感染拡大より前から混乱状態にある。国連安全保障理事会の構成が現実とかけ離れていることを念頭に、「世界は(常任理事国の数である)5より大きい」と訴え、世界で最も多く難民を受け入れてきたトルコから見れば、システムが機能していないことは明らかだった。

 2008年の世界経済危機では、20カ国・地域(G20)が方向性を示すことで安定の回復が図られた。世界のシステムはその時には機能したが、新しいグローバル・アクターに支えられた部分が大きかった。今回も経済に同様の影響が及ぶことに備え、改革と同時にシステムが機能することを保障しなければならない。

 わが国はG20首脳が連携し、また国際貿易を円滑化することで合意した声明を歓迎し支持している。中でもスワップ協定拡大は最も重要な措置といえる。トルコが提案した高官調整グループが発足したことも喜ばしい。国境管理や各国民の帰国に関し、各国が連携しなければならないからだ。

 トルコを含む多くの国々が強固な対策を講じているが、個別な対応では十分ではない。国際機関ならびにそれらを支える体制を再構築しなくてはならない。関連分野の国際機関が財政支援と医療機器の援助に積極的な役割を担うべきだ。非正規移民や難民の保護と、これらの人々を保護する国々への支援は今まで以上に重要になる。

 あからさまに政策手段化している経済制裁も、人道的見地から考え直す必要がある。イランへの制裁も含め、一国への制裁が周辺諸国にも影響を及ぼしていることを考慮すべきだ。世界中で健康のための戦いが繰り広げられている今こそ、地政学的競争や政治的な不満はほとんど意味のないことではないのか。すべての紛争を終わらせ、和解を積極的に進めるべきだ。

 国籍・宗教・人種にとらわれず、国際機関に支えられてルールに基づいた国際システム、機能的な国民国家ネットワーク、そして全人類に有益な世界経済が実現されることも不可能ではないはずだ。正しい方向に進むことができれば、このパンデミックからより良い世界を作る好機を見いだすこともできる。(寄稿・トルコのチャブシオール外相)

メブリュト・チャブシオール 1968年、トルコ南部アンタルヤ県生まれ。アンカラ大政治学部卒。現与党、公正発展党(AKP)の創設メンバーの一人。欧州評議会議員会議議長などを経て2014年8月~15年8月まで外相を務め、同年11月に再任され現在に至る。03~07年にはトルコ日本友好議員連盟会長を務め、19年に両国の関係強化に寄与したとして旭日大綬章を授与された。