海外情勢

インド新型コロナ禍 出稼ぎ少女100キロ歩き衰弱死、移動制限で児童問題表面化

 新型コロナウイルス対策で全土を封鎖し、人の移動を厳しく制限したインドで、出稼ぎ労働者が長距離を徒歩で帰郷しようとして途中で相次いで亡くなった。4月には12歳の少女が実家を目指して100キロ以上歩き、力尽きた。多くは収入を失い、政府の支援も受けられず、生活に困った末の悲劇。政府は4月下旬にこれまでの方針を転換し、労働者の移動制限を緩和した。

 地元報道によると、少女は中部チャッティスガル州のジャマロ・マドカムさん。両親は農林業に従事しているが生活は苦しく、一人っ子のマドカムさんは亡くなる約2カ月前、隣のテランガナ州のトウガラシ農場へ働きに出た。

 モディ首相は4月14日、3週間続けた全土封鎖を5月3日まで延長すると表明。政府は人の移動で感染が広がる恐れがあるとして鉄道やバスの運行を停止させ、州境を越えることも制限した。

 経済活動も停止していたため、マドカムさんは仕事がなくなると考え、100キロ以上離れた実家に戻ろうと、同僚とみられる十数人と歩き始めた。当局の検問がある幹線道路を避けて森林地帯を3日間歩き、実家まで十数キロの所まできた4月18日に息絶えた。脱水と極度の疲労が原因とされる。翌日、新型コロナは陰性と判明。両親が遺体を引き取った。

 出稼ぎ労働者が大挙して故郷に戻ろうとしたため、政府は一時避難所の設置と食料支援を地方政府に要請した。テランガナ州も1人当たり500ルピー(約700円)とコメなどの支援を表明したが、マドカムさんには届かなかったもようだ。

 3月下旬にも、30代の男性が約200キロ歩いて命を落とした。首都ニューデリーの勤務先レストランが営業を停止し、約300キロ離れた中部マディヤプラデシュ州の故郷の村に向かっていた。

 「政府は出稼ぎ労働者の人数を把握し準備していたのか」「支援金が出ても全ての人が銀行口座を持っているわけではない」。政府の後手後手の対応に労働者支援団体などは3月下旬の段階で既にこう指摘していた。

 政府は4月29日になって、ようやく方針転換。新型コロナの症状がないなどの条件付きで労働者が道路を通って帰郷することを許可した。5月1日には労働者のための特別列車の運行も認めた。

 地元人権活動家はマドカムさんの死を「二度とあってはならない。彼女は子供であり、労働者として見るべきではない」と指摘。5~14歳の約1000万人が働いているとされるインドの児童労働問題も改めて浮き彫りとなっている。(ニューデリー 共同)