日系企業7割にコロナの「損害」 カンボジア日本人商工会が調査
カンボジア日本人商工会(JBAC、神田陽悟会長)はこのほど、新型コロナウイルス感染拡大による影響について会員企業にアンケートを実施した。回答企業の約7割が「損害がある」と答えたほか、カンボジア側の入国規制などにより日本との往来が自由にできず、業務に支障をきたしているとの声が上がった。
カンボジアでは5月末までに新型コロナ感染者125人が確認されているが、死者はいない。爆発的な感染や「市中感染」は起きていないとみられているが、医療インフラが脆弱(ぜいじゃく)なこともあり、カンボジア政府は3月半ばから教育機関を閉鎖、娯楽・観光施設に休業を指示した。さらに、多くの人が里帰りをする4月半ばの「クメール正月」連休は通常勤務日とし、州を超える移動を禁止した。
JBACは、4月30日~5月5日にメールで調査を実施。対象267社のうち157社から回答を得た。JBAC事務局長で日本貿易振興機構(ジェトロ)プノンペン事務所長の宮尾正浩氏は、「短期間の調査としては高い回答率で、関心の高さをうかがわせた」と話す。回答企業の業種は製造が最も多く32%、続いて建設・不動産15%、サービス14%、商業13%、金融・保険10%、貿易8%、運輸6%となっている。
物流や移動に支障
調査結果によると、新型コロナ感染拡大の影響で「事業を停止している」とした回答は「停止予定」「一部停止」を含めて全体の24%にとどまったが、「事業への実質的な損害がある」と答えた企業は「今後ある見込み」を含めて68%、さらに「財務状況への実質的な損害がある、今後ある見込み」とした企業も69%に上った。
具体的な損害としては、物流や人の移動に関するものが多く挙がった。例えば、「他国よりエンジニアを招聘(しょうへい)できず建設ができない」「タイ、ベトナム、中国などからの輸入遅延。部材が入荷しない」など。「顧客の注文がほぼ止まっており、今後も見通しが立たない」「日本市場での需要減で受注が減っている」「来客数が8割減、給与と家賃で赤字になる」「現状が続くなら事業停止や撤退もあり得る」など、需要の落ち込みがあるとの回答も目立った。
また、労務管理への影響も大きかった。「クメール正月」の連休は返上されたが、それでも休暇を取った社員は2週間の隔離措置となった。「有給隔離」の場合もあり、「生産がないのに労務コストがかかる」といった回答もあった。
新型コロナの感染拡大は、現地の日本人にも直接影響を与えている。調査期間で、カンボジアに駐在する現地責任者のうち日本へ一時帰国していた人は約2割。8割はカンボジアに残留し、責任者以外の駐在員もほぼ同様だった。
カンボジア政府は入国を希望する全ての外国人に対し、出発72時間前以降に取得した新型コロナ非感染証明などの提出を求めている。いったん出国すれば自由に往来できなくなる可能性があり、多くの駐在員が必要な出張もできないまま足止めされている実態が明らかになった。この状態は6月初旬も続いており、現在は入国する全ての外国人にPCR検査を実施し、同じ飛行機の乗客に一人でも感染者がいれば全員が2週間、指定の場所で隔離される。
海外からの感染警戒
厳しい水際対策の背景には、カンボジアで確認された感染者のうち半数以上が外国人だったという事実がある。感染したカンボジア人も多くが外国で感染したとみられており、カンボジア政府はウイルスが外国から持ち込まれることに強い警戒心を抱いている。
宮尾氏によるとアンケートで特に多かったのは、カンボジア側にこの再入国規制の見直しを求めたいという意見だった。日本では健康な人はPCR検査を受けられない状態で非感染証明の取得は困難であることから、日本政府からカンボジア側に実情を説明してほしい、または日本側でも駐在員などが非感染証明を容易に取得できるようにしてほしいといった意見があり、在カンボジア日本大使館に対しこの要望を伝えた。
これを受けて三上正裕大使は、カンボジアのモム・ブンヘン保健相と面談。カンボジア政府が新型コロナの感染防止に対応を行うのは当然であるが、ビジネスや経済協力などのために早期にカンボジアに入国を希望する日本人が多くいることと、カンボジアの経済に必要な人が来てもらえるよう、入国者に対する配慮や、水際措置の運用面での改善を検討してほしいとの要望を伝えたという。
世界銀行によると、カンボジアの2020年の経済成長予測はマイナス1%~同2.5%と、1994年以降で最も低くなる可能性がある。カンボジア政府にとっては防疫と経済活動のバランスをどう取るかが課題となっている。(カンボジア日本語情報誌「プノン」編集長 木村文)