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徹底した“非対面”の接客 コロナ感染防止の「ホテルシェルター」

 自宅とは別に安心して滞在できる場所を-。ホテル予約システムの運営を行う「CHILLNN」(チルン、京都市南区)が、系列ホテルで、新型コロナウイルスの感染防止対策を徹底した「ホテルシェルター」と名付けた取り組みを始めた。家族への感染リスクが心配な人や、家庭内暴力などのトラブルを避けたい人に、安全に過ごせる場所としてホテルを低価格で提供している。事前予約は約500件。外出自粛の影響で業績が悪化している全国各地のホテルからも注目を集め、ノウハウの提供を始めた。(地主明世)

ホテルシェルターでは、フロントには小型カメラが設置され、QRコードを読み取ってチェックインする

 徹底した非対面の接客

 まだ、緊急事態宣言が全国で解除される前の5月19日、ホテルシェルターとなっているチルンの系列ホテル「HOTEL SHE,KYOTO」(京都市南区)を訪ねると、玄関口で支配人の笠井明さん(23)が宿泊方法を説明してくれた。

 「ホテルに入る際には事前にお伝えしていた番号を入力してもらいます」。パスワードを入力して入館すると、フロントのテーブルの上に小型カメラが設置されていた。事前予約のデータを送信したり、掲示されたQRコードをスマートフォンで読み込んだりしてチェックインする。感染拡大防止のため、従業員と宿泊者が一切接触しない「非対面接客」を導入しているが、従業員とはLINEを通じてメッセージのやり取りもできるという。

 ワーキングホリデー制度で暮らしていたアイルランドから5月中旬に帰国した京都市の古野瑞揮さん(28)は、国の要請に従って2週間の自己隔離のために滞在していた。帰国直後に受けたPCR検査では陰性と判明したが、実家には高齢の両親がいるため、ホテルの利用を決めた。「ほかの滞在者に会うこともなく安心感がある。スマートフォンのアプリで従業員の方とメッセージのやり取りもでき、ホテルの備品のこと、近くで買い物ができる場所など気軽に質問している」と話す。

 「ステイホーム」では救われない人も…

 「『ステイホーム』では救われない人たちがいる。そんな方々と家族を、私たちホテルがシェルターとなって守りたい」

 チルン社長で、系列ホテルの経営も行う龍崎翔子社長(24)はホテルシェルターを始めた思いをこう話す。全国5カ所で経営するホテルは3月下旬から例年の半分に稼働率が落ち込み、4月5日から休業に踏み切った。ホテルに何かできることはないのか。試行錯誤を重ねた。

 シェルターの利用者として想定したのは、家族への感染リスクなどを減らしたいと願う医療従事者や社会生活に欠かせない「エッセンシャルワーカー」と呼ばれる職業の人たち。さらには、外出自粛によって在宅時間が増えたことで、家庭内暴力(DV)や児童虐待のリスクが高まっているという指摘がある中、そういった心配を抱える人にもホテルを安全な場所として利用してもらおうと考えた。

 約1カ月かけて感染症専門医の監修を受けて独自の感染防止ガイドラインを策定した。安心できる滞在先を提供するために、決してホテルが感染拡大の場になってはならないからだ。館内を宿泊者が出入りするエリアと従業員のエリア、両エリアの中間エリア-の3区画に分類。寝具などは宿泊者自身が交換して、室内清掃は利用後3日が経過してから行うように決めた。体調不良が判明した際は、医師によるオンライン診療を紹介することもある。

 一泊の料金は3千円程度に抑え、予約は最低5日間からとした。5月から導入を始めたチルン系列の2ホテルだけで事前予約はすでに約500人にのぼった。

 全国から問い合わせ

 コロナ禍による宿泊業界への経済的打撃は大きい。帝国データバンクによると、全国の新型コロナウイルス関連倒産は6月1日現在202件。このうち旅館・ホテルなどは39件と、飲食関係(25件)などを抑えて最多だ。関西でも大阪市の「WBFホテル&リゾーツ」が経営破綻、京都市では中心部にある阪急京都河原町駅の真上のビジネスホテルが閉館を決めた。帝国データバンクの担当者は「ホテルは建物を所有し、負債を抱えながら経営しているところが多い。宿泊がないとどうにもならず、時短営業などで乗り切れるレベルではない」と話す。

 一方、国内では病院の病床が足りなくなる「医療崩壊」の懸念が拡大したため、4月、ビジネスホテルチェーンのアパホテル(東京)などが病院側の負担軽減などを目的に軽症者らの受け入れを表明した。

 チルンの龍崎社長はこうした動きについて「合理的で、宿泊施設の経済的維持にも効果がある」と話す。ホテルシェルターを運用する「HOTEL SHE,KYOTO」の笠井支配人も「自分たちにもまだできることがあると思って取り組んでいます」と話す。5月30日からは通常客の受け入れも再開したが、宿泊フロアを分けて今後もシェルターの運用を続ける。

 「今必要なのは業界の連帯」と龍崎社長。5月下旬からは自社のシステムを活用し、稼働率が下がったホテルと、自宅以外の滞在先を求める人をマッチングさせる予約サイトを立ち上げた。ホテルシェルターの感染防止ガイドラインも提供しており、すでに全国のホテルや民泊施設など230カ所以上から申し込みがあるという。「新たな需要に業界が一丸となって適応していくことで、ホテルが社会の新たなインフラとなっていく」と力を込めた。