海外情勢

約半数がマイホーム売却を検討中… 深刻なローン苦の米国

 【エンタメよもやま話】

 さて、今回ご紹介するエンターテインメントは、欧米の景気と不動産に関するお話です。

 5月に緊急事態宣言が段階的に解除され、経済活動が再開。これを受け、個人消費が持ち直しているとの認識から、政府は6月の月例経済報告で、国内の景気は「新型コロナウイルス感染症の影響により、極めて厳しい状況にあるが、下げ止まりつつある」と判断を上方修正。

 企業の業況判断についても「急速に悪化している」から「厳しさは残るものの、改善の兆しがみられる」と3年2カ月ぶりに上方修正しましたが、東京都の感染者の動きなどを見ていると、日本経済の先行きには暗雲が漂ったままです。

 しかし、米の状況はこんな生やさしいものではないのです。日本では想像できませんが、米では、コロナ禍のせいで、ローンを組んで苦労して買ったマイホームを泣く泣く手放さざるを得ない人々が激増しそうなのです。今回の本コラムでは、そんな米を中心に、欧米の不動産市況の現状などについてご説明いたします。

 本コラムのネタ探しで欧米メディアのサイトを巡回していて、このニュースを見つけた時、暗たんたる気持ちになりました。6月18日付で米の住宅業界専門のニュースサイト、ハウジングワイヤー・ドットコムや米紙ニューヨーク・ポスト(電子版)などが報じているのですが、米ではコロナ禍による景気悪化のせいで、マイホームの所有者の約半数にあたる47%が、住宅ローンを支払う余裕がないため、売却を検討しているという調査結果が明らかになったのです。

 この調査は、全米不動産協会(NAR)が市場調査会社と組んで、マイホームを所有する全米の2000人を対象に実施したものですが、それによると、コロナ禍のせいで全体の81%が予期せぬ財政難に直面。半数以上にあたる56%は、住宅ローンを支払うため、家計の見直しや経費の削減に迫られたと回答。52%は住宅ローンを支払い続けられるかどうか、日々、心配であると答えました。

 そして35%は、新型コロナの感染拡大が本格化した3月から6月の間、住宅ローンの支払いを先延ばし、または停止・滞納したといいます。さらに、ほぼ半数にあたる47%は、新型コロナの感染拡大以降、お金を稼ぐ新たな方法を探していると回答。こう答えた人たちのうち、64%は副業を始め、53%は私物を売って住宅ローンの支払いなどの足しにしたといいます…。

 無論、こうした人々のために、住宅を手放さないための救済制度があります。米で3月末に成立した「コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法(CARES法)」の一環で、例えば、住宅ローンが払えなくて、裁判所から差し押さえの判決が下されるという最終局面を迎えても、貸し手側は少なくとも今年の8月31日までは差し押さえに着手できなかったり、新型コロナのせいで財政的に困窮していることを貸し手側に証明できれば、住宅ローンの支払いを最大180日間、延長できるといった内容です。

 こうした政府の救済措置に加え、メディアなどは、現在の住宅ローンを金利の低い別のローンに借り換えを推奨しています。住宅ローン市場に安定的に資金を供給するため、金融機関から住宅ローンの債権を買い取り、それを担保にした証券を発行する政府系金融機関「連邦住宅金融抵当公庫(フレディマック)」によると、コロナ禍の影響で、米での住宅ローンの金利は5月末、借り入れ期間が30年の固定金利で平均3・15%、15年間の固定金利で2・62%と史上最低水準に下落しました。

 そのため、例えば4・5%の金利で20年間、住宅ローンに20万ドル(約2100万円)を支払う場合、利息は約10万3670ドル(約1100万円)になりますが、金利3%の住宅ローンに借り換えれば、利息分の支払いを日本円で約400万円、浮かせることができます(5月28日付と6月4日付の米FOXビジネスニュース電子版)。

 それでも、前述の調査結果に話を戻すと、全体の71%は政府の救済措置の対象外になるのではと心配しており、57%は政府の救済措置自体に懐疑的だといいます。

 この調査結果について、全米不動産協会(NAR)のヴィンス・マルタ会長は声明で「新型コロナの急速かつ前例のない影響により、多くの人々が財政的な危機に見舞われている」と前置きし「とりわけ、住宅ローンの支払いに苦労しているマイホームの所有者は、政府の救済策に頼り、マイホームを手放す状況に陥らないようにすべきである」と明言。さらに「協会としても会員同士の情報共有を含め、あらゆる措置を講じたい」と訴えました。

 想像以上に大変な状況なのですが、この衝撃の調査結果が明らかになった直後、この調査結果を裏付けるかのような出来事が報道されたのです。

 この調査結果が明らかになってから4日後の6月22日付で米CNNビジネス(電子版)などが報じたのですが、米では5月、住宅ローンが支払えず、滞納してしまった人が約430万人に達し、2011年以降で最高水準に達したというのです。

 住宅ローンに関する米調査会社、ブラックナイトの調査で判明したのですが、3月末の200万人から急増しており、5月の滞納率は全体の8%に。そのうえ、深刻な滞納が過去2か月で50%以上も増加しており、63万1000人の住宅所有者が住宅ローンの支払いを90日以上、滞納していたといいます。

 こうした滞納者が最終的に住宅ローンを返済できる可能性は低いうえ、米では現状、コロナ禍が収束する気配が全く見えないことから、金融機関や住宅業界が動向を注視しています。

 一方、欧州では、米ほどではないにせよ、英の不動産市場が新型コロナの影響を大きく受けると見られています。

 6月11日付の英BBC放送(電子版)は、英でも5月の全国住宅価格指数が、前月から1・7%下落し、ここ11年間で最大の下げを記録したと報じ「過去に見られた典型的な景気後退局面に入ってはいないので、住宅の価格はこれから安定化する兆候が見られる」との専門家の見方を紹介。

 加えて、テレワーク(在宅勤務)の定着で、広い庭とオフィス代わりになるスペースがある郊外の不動産へのニーズが急速に高まるなど、構造的な変化に見舞われると予想。都心部の商店では、コロナ禍による休業で売り上げが大幅に落ち、家賃の滞納がひん発。そのせいで、長期的には商業地の資産価値が20%から30%下落するという、英オックスフォード大のビジネススクールのアンドリュー・バウム教授の見解を紹介しています。

 そんななか、興味深い動きがあったのがイタリアです。6月10日付の米CNNや同月12日付の英紙インディペンデント(いずれも電子版)などによると、イタリアの南の端(長靴のまさに先端部)のカラブリア州にあるチンクエフロンディ村(人口約6500人)が“新型コロナの感染者ゼロの村”を売りに、住宅を何と1ユーロ(約120円)で販売しているのです。

 都会に仕事を求め、若い世代がどんどん村を後にし、人口減に歯止めがかからないため“コロナゼロの村”をアピールしつつ、新たな居住者を呼び込むのが狙いといいます。

 オペレーション・ビューティーと名付けられたこの計画、発案者のミシェル・コーニャ村長は「村に多くある廃屋の新しい所有者を見つけることで、街の劣化した部分の回復につながれば」と期待します。

 販売している住宅の広さは40~50平方メートルで、小さなバルコニーがあるものも。ただし、いずれも廃墟となった地区に建ち、不安定かつ危険な建物です。購入した人は、1万ユーロから2万ユーロを投じ改装工事に着手。加えて、工事が完了するまで年間250ユーロの保険料を支払う必要があります。そして、購入者が3年以内に改装工事を完了しなかった場合、2万ユーロの罰金が科せられるといいます…。

 コロナ禍が各国の不動産の価値だけでなく、日本を含む世界中の人々の暮らしぶりを激変させるのは間違いなさそうです。(岡田敏一)

【プロフィル】岡田敏一(おかだ・としかず)1988年入社。社会部、経済部、京都総局、ロサンゼルス支局長、東京文化部、編集企画室SANKEI EXPRESS(サンケイエクスプレス)担当を経て大阪文化部編集委員。ロック音楽とハリウッド映画の専門家、産経ニュース( https://www.sankei.com/ )で【芸能考察】【エンタメよもやま話】など連載中。京都市在住。

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