縮小方針を決定も…「石炭中毒」といわれる日本への批判は一面的
二酸化炭素(CO2)排出量の多さが問題視される石炭火力発電をめぐり日本への風当たりが強まる中、政府は非効率な石炭火力を2030年度までに休廃止する方針を決めた。多くの国が発電用エネルギーとして石炭を活用しているにもかかわらず日本が批判の矢面に立たされるのは、国内だけでなく国外でも石炭火力を推進してきた事情がある。ただし各国個別のエネルギー事情を考慮せずに脱石炭ばかりに重きを置く立場からの批判は一面的ともいえる。安全保障も含めた世界情勢全体を踏まえた冷静な議論が求められる。
欧州から厳しい目
昨年12月、スペイン・マドリードでの気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)の会場で、日本のエネルギー政策に冷ややかな視線が注がれた。世界の環境団体でつくる「気候行動ネットワーク」が会議の期間中、地球温暖化対策に後ろ向きだとみなした国に皮肉を込めて贈る「化石賞」に日本を2度も選んだのだ。日本政府が石炭火力の利用を続ける方針を改めて示したことが理由だ。
今年2月にも米ニューヨークの国連本部での気候変動問題に関する会合で、グテレス事務総長が「石炭中毒」という言葉を使って、石炭火力への依存を批判した。日本などを指したとみられる。このほか欧州各国からの風当たりも強い。
日本が批判されるのは欧州を中心とする各国が石炭火力から距離を置く中、日本が石炭火力を推進し、発展途上国での建設にも多額の公的融資を続けているからだ。例えば国際協力銀行(JBIC)は昨年4月、ベトナムでの石炭火力発電事業に約12億ドル(約1300億円)を限度とする融資を行うことを決めている。
政府は今月3日、非効率な石炭火力を「できる限りゼロに近づける」と表明した。しかし高効率とされる最新の石炭火力は維持、拡大を容認しているうえ、輸出も引き続き行う方針だ。こうした立場がどこまで国際社会の理解を得られるかは分からない。
ただ、世界を見渡せば、石炭火力を使っている国は少なくない。
日本以外にも中国、インド、韓国、米国、ロシア、豪州、南アフリカ、ポーランド、ドイツなどが石炭大国といえる。このほか東南アジア諸国も利用が多い。
このうちドイツは今月3日、温暖化対策として、今後18年間で石炭火力を全廃する「脱石炭」法案を可決。2022年末までの脱原子力発電政策も進め、政府は50年までに電力の80%を再生可能エネルギーで賄うとの政策を掲げた。しかし石炭大国のなかにあって脱石炭を掲げるドイツは例外的な存在だ。
一方、30年までの脱石炭を目指すとしている英国やカナダ、フランス、フィンランド、デンマーク、オランダ、イタリアなどはもともと石炭火力の比率が少なく、脱石炭に向かってもエネルギー政策を大転換するほどではない。日本政府関係者からは「脱石炭火力の方針を打ち出せば環境先進国なのか。国の事情を反映していない」との恨み節も漏れる。
それどころかこれらの国にとって脱石炭は自国産業の振興策だとの見方も成り立つ。欧州には洋上風力、太陽光などの再生可能エネを手掛ける企業が多い。脱石炭で再生可能エネの重要度が高まればこれらの企業の追い風になるため、「欧州連合(EU)が石炭火力のネガティブキャンペーンを張っている」(電力会社)というわけだ。
紛争リスク少なく
エネルギーは安定的な供給、経済性、環境適合、安全性などのさまざまな要素を満たすことが求められる。しかし全てで完璧なエネルギーはなく、バランスをとりながら最適なエネルギーと、その組み合わせを選ぶことが重要だ。
この意味でいえば、日本は11年の東京電力福島第1原発事故後に原発の再稼働が停滞する中、安いコストで電力を安定供給できる石炭火力を活用してきた経緯がある。
日本で使われる石炭の調達先は豪州やインドネシア、ロシア、カナダ、米国などで、原油の大半を依存する中東に比べて紛争などがもたらす地政学的リスクが少ないという利点もある。
日本はこうした石炭火力の強みも踏まえ、高効率な石炭火力を生かしていく方針をとった。一足飛びに石炭火力をゼロにするという理想論を掲げず、現実的な一歩を踏み出したというわけだ。
日本撤退なら中国進出、安保上の問題も
石炭火力に否定的な潮流について、梶山弘志経済産業相は「(石炭火力の意義は)分かっていても、化石燃料を使うことに対する絶対的な非難がある」と指摘する。梶山氏はその上で「30年に、50年にどうしましょうかと議論をしている中で、高い目標を掲げればそれでいいということではない」と主張する。
また「脱石炭」の安易な強化は石炭火力のインフラ輸出を進める中国を利するという側面もある。
中国は提案中の案件も含め、パキスタン、ベトナム、インドネシア、南アフリカ、エジプトなど20カ国以上の石炭火力発電事業に300億ドル以上を投資している。日本が撤退すれば中国が入り込むだけで、人権や国際ルール順守への意識の低さが批判されてきた中国が途上国への影響力を強めることは、安全保障上の問題となり得る。
日本の石炭火力を悪役にすることは簡単だが、国際社会の全体像を把握することも忘れてはならない。(飯田耕司)