マイナンバーカード取得しない人の誤解 国はもう個人情報を連携させている
マイナンバーカードを使った政府のポイント還元策「マイナポイント事業」の申し込み受け付けが7月から始まった。政府関係者はカード普及の“起爆剤”と期待するが、効果は限定的とみる向きもある。現状ではカードの使い道がほとんどない上に、カードへの不安や警戒心も根強いからだ。ただ、カードをめぐっては誤解が多いのも事実。事業を進める中で、カードの意義も合わせて浸透させられるかがポイントになりそうだ。
マイナポイント事業は、カードの普及と消費喚起などを目的に政府が9月から来年3月まで実施。マイナンバーカードにキャッシュレス決済サービスを登録して申し込むと、その決済サービスで買い物やチャージをすれば25%(最大5000円分)がポイントとして還元されるという施策だ。4000万人分の予算を確保しており、6月末時点のマイナンバーカードの交付枚数(約2200万枚)からほぼ倍増することを見込んだ強気の予算となっている。
ただ、導入から4年半が経過した今も17%という低い普及率を背景に、「それほどうまくいくとは思えない」と冷ややかな声があるのも事実だ。あるクレジットカード会社も、普及率の低さを理由に今回の事業への参加は見合わせる方針だ。「システム改修費などを考えると、十分なメリットが見込めない」(担当者)からだ。
ナベツネ氏は愛用?
なぜ、マイナンバーカードはこれほどまでに普及しないのか。その問いに、麻生太郎財務相は今年1月の記者会見で「俺の知っているかぎり、最もこのカードを利用しているのは読売新聞の渡辺恒雄って人ですな」と冗談交じりに語ったことがある。
運転免許証を返納した高齢者などは、身分証として重宝しているが、それ以外の用途があまりないことを麻生氏の独特な言い回しで説明したのだ。
実際、マイナンバーカードを持っている人でも、身分証以外で利用する機会があまりないのが現実だ。例えば、マイナンバーを持っていれば住民票や戸籍などをコンビニエンスストアで取得できるようになるし、確定申告もオンラインで可能だ。しかし、こうした手続きは1年に何度も行うものではない。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴って実施された10万円の特別定額給付金では、マイナンバーカードを使ったオンライン申請で、多くの人が暗証番号を忘れて、再発行手続きをしに役所に殺到するなど混乱した。このことも、マイナンバーカードを使う機会が乏しいことの表れといえる。
マイナンバーと混同
一方で、ニッセイ基礎研究所の清水仁志研究員は「マイナンバーカードに対する誤解が多いことも普及が遅れている一因だ」と語る。清水氏によると典型的な誤解は「カードを持つと個人情報が国に把握される」というものだ。
マイナポイント事業でも、会員制交流サイト(SNS)では「たった5000円のポイントで国に情報を握られたくない」などといった書き込みが目立つ。ただ総務省の担当者は「カードの発行で国や自治体が新たな個人情報を取得することはない」と話す。
こうした誤解は、「マイナンバー」と「マイナンバーカード」を混同していることから生じているとみられる。
マイナンバーカードは希望者にのみ交付されるプラスチック製のカードだが、マイナンバーはすでに全国民に割り振られている12桁の番号だ。国や市区町村などは行政サービスを行う過程で、国民の所得や就業、健康など多くの情報を持っており、こうした情報を番号を使って組織横断的に連携させれば、より充実した行政サービスが提供できるようになることから導入された。
つまり、一部の人が懸念するような個人情報の連携はカードの発行の有無に関わらず、すでに行われているのだ。
番号で管理するのは、名前だと同姓同名の人を間違えるなどミスが起こりやすいためだ。ただ、平成27年に制度が始まった際は、国民への監視強化や、個人情報流出を懸念する声が根強く、不正な情報漏洩(ろうえい)に対する罰則も設けられた。
ある総務省の担当者は当時を振り返り、「マイナンバーは大切に管理してくださいと呼びかけすぎたかもしれない」と話す。マイナンバーが記載されたカードにも警戒感が高まり、普及の妨げにも繋がっているからだ。
ただ、仮にカードを落としてマイナンバーが他人に知られたとしても、顔写真付きの身分証や暗証番号がなければ、個人情報を見ることはできない。銀行のキャッシュカードも拾っただけでは口座から現金が下せないのと同じだ。
“お得”を強調するのでなく
もちろん、マイナンバーを他人に伝えたりすることは控えるべきだが、今のように持ち歩くことすら敬遠される状況では、マイナンバーカードの本来の目的も達成できない。
マイナンバーカードはデジタル社会の到来を見据えて導入された。デジタル社会ではパソコンやスマートフォンなどで、さまざまな行政手続きができるようになるが、その際の本人確認などで必要不可欠なものだ。また、社員証や図書カードなど複数のカードを一本化できるメリットもある。
政府はマイナンバーカードの交付枚数が、マイナポイント事業で最大4000万枚となり、来年3月に保険証の機能が備わることで最大7000万枚となり、令和5年にはほとんどの国民が所有すると想定する。
その意味では、マイナポイント事業は普及に向けた取り組みの序章でしかない。政府のマイナポイント事業の広報を見ていると、“お得”な点を強調するあまり、本質的な議論が欠落しているようにも見える。本格的な普及を目指すなら、マイナンバーカードの必要性や、社会にもたらすメリット、安全対策などについて改めて周知し、理解を得る取り組みが不可欠だ。(経済本部 蕎麦谷里志)