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被災してお好み焼き? 日常の手抜き料理が防災食になる「フェーズフリー」

 【近ごろ都に流行るもの】

 被災時にお好み焼きを作るの!? 災害時の備えを平常時の暮らしに組み込む「フェーズフリー(Phase Free)」が提唱されている。特にコロナ禍で自宅避難が呼びかけられる今、防災の自立は国民的な務めだ。そんな最中に発行された「備えいらずの防災レシピ 『食』で実践フェーズフリー」(東京法令出版)は、ガス・電気・水道が停止した非常時でも調理できる、日常のおかずやおやつを収録。その手法は手抜き、節約、エコのアイデアが満載で、今日からでも取り入れられる。(重松明子)

被災時にも作れるお好み焼きなど、フェーズフリー防災レシピを研究する飯田和子さん。長芋の常備を推奨=東京都小平市(重松明子撮影)
素材を潰す、混ぜる、乾物を戻す…などが一度にできるポリ袋。道具と手間を最小化する(重松明子撮影)
切り干し大根など、普段の調理に乾燥野菜を使うことが非常時の備えになる
大判の撥水風呂敷を愛用する飯田和子さん。結び方でリュックにもなる
飯田和子さんは、大判の撥水風呂敷をフェーズフリーグッズとして愛用。被災時の用途の広さと安心感が違う

 今回の取材は、東京都小平市にある著者の飯田和子さんのキッチンにおじゃまして、本からお好み焼きをリクエストするところから始まった。

 まずは長芋をポリ袋に入れ、使用する缶詰の角で潰す。そこに乾燥野菜のキャベツやニンジン(残り野菜でもいい)、卵、ツナ缶、常温保存が可能なロングライフ牛乳、小麦粉を投入し、袋ごと振ってモミモミ。カセットコンロのフライパンに移して、コンガリ焼いて完成。長芋のつなぎがふわっ、シャキッとしておいしい!

 日持ちして、生でも食べられる長芋の「一家に1本常備」を推奨する。飯田さんのレシピは、切り干し大根などの乾燥野菜・乾物を多用するのが特徴だが、日照不足で生野菜が高騰する今、家計的にも助かるし、はさみで切れるのも楽ちん。ポリ袋も必須アイテムだ。

 「ポリ袋は多用途で、道具を使わずに衛生的に調理できる。洗い物も減らせる」と飯田さん。紹介する料理はどれも超簡単。筆者も作ってみたが、切り干し大根と鯖(さば)缶をポリ袋に入れて缶汁で大根を戻せば、火を使わずに煮物風の一品となる。ごまやノリを加えるなど好みにアレンジでき、酒肴にも気が利いた小鉢が5分で一丁上がり! 「まずは作って食べてみて。それが備えになるんですよ」

 担当編集者の徳竹裕志さん(38)は「身近な食材で簡単に作れ、栄養バランスも良い。コロナ禍で家庭料理への関心が高まるなか、若者の料理入門書としても活用してもらいたい」と期待する。

 飯田さんは、栄養士・調理師として、行政などが主催する防災食教室の講師を長年務めてきた大ベテラン。平成7年の阪神淡路大震災で妹家族が被災したことが、研究を始めるきっかけになった。昨年4月から、消防士向け専門誌「月刊消防」で連載中の「家で職場で防災レシピ」が評判となり、今年7月に単行本化が実現した。35品を収録。包丁は使わず、ちぎる、もむなど、幼児から高齢者まで安全に調理できることを重視している。いざ被災したとき、できることを分担することで人に役立てる喜びを感じたり、「みんなで頑張ろう」という一体感を醸成できたりする、心理的効果まで考えた。

 「食べることは生きること」。健康な人は数日食べなくても死にはしない。だが非常時、「食べ物を口に入れることでほっと落ち着き、パニックが防げる。それには、食べなれた味でなくては。だからフェーズフリー」と飯田さん。これならば、非常食が防災袋の中で期限切れ…なんて失敗も起きない。また、水をジッパー付き袋に入れて冷凍庫で板状に凍らせておくこともすすめる。「保冷剤として使え、溶けたら飲めて無駄がありません」

 防災風呂敷講師でもある飯田さんは、撥水生地で1辺140センチの大判風呂敷を持ち歩いている。普段はエコバッグ。災害時には目隠しや運搬、防寒、防雨など、さまざまに活躍するフェーズフリーグッズだ。「備えは発想。最後は雨水でも生きられると、大きく考えていてください」

 フェーズフリーとは、防災工学が専門の社会起業家・佐藤唯行氏が平成26年に提唱した、災害大国日本発祥の言葉だ。「平常時」と「災害時」のフェーズを取り払い、普段利用している商品やサービスが被災時にも適切に使えるように整え、QOL(生活の質)を守り、被害を低減することを目的とする。

 平成30年には、佐藤氏を代表理事に一般社団法人フェーズフリー協会が発足。飯田さんも「アクションパートナー」として賛同し、普及に努めている。

 天災は忘れたころにやってくる…。とは、戦前の物理学者で随筆家としても知られた寺田寅彦(1878~1935年)の箴言だが、近年は異常気象で、忘れないうちに頻発している。「いつも」と「もしも」の壁を低くすべしだ。