日銀総裁会見から消えた「感染症の第2波」、最悪期は脱したのか
【経済インサイド】
9月17日に開かれた日本銀行の金融政策決定会合後の黒田東彦総裁の会見から、それまであった経済リスクとしての「感染症の第2波」という言葉が消えた。もちろん、新型コロナウイルス感染症の危険性がなくなったというわけではない。あえて「第2波」という言葉を使わなかったのは、収束せずとも新型コロナと経済活動の「両立」の可能性があることが背景にあるようなのだ。
まずは前回、7月15日に行われた決定会合での、黒田氏の先行きの景気認識を振り返る。
黒田氏は「緩和的な金融環境や政府の経済対策の効果にも支えられて、今年後半から徐々に改善していくとみられる」と指摘した。その上で、その見通しは「大規模な感染症の第2波が生じないこと」と述べ、第2波がないことを景気回復の条件の一つにあげていた。
これに対し9月の決定会合はどうか。黒田氏は「緩和的な金融環境や政府の経済対策の効果にも支えられて、改善基調をたどるとみられる」と述べた。
後半部分は7月の「今年後半から徐々に改善していくとみられる」から、9月は「改善基調をたどるとみられる」に変更されている。ただ、これは発言の時期が7月から、今年の後半である9月に時期が移っていることが理由で、発言の内容自体に大きな変更はない。
問題は、その後の新型コロナのリスクについての発言だ。9月はリスク要因として、7月と同様に「新型コロナ感染症の帰趨(きすう)や、それが内外経済に与える影響の大きさ」を挙げるにとどめた。9月は、7月にあった「大規模な感染症の第2波が生じないこと」の部分が消えたのだ。
なぜ、リスクとして感染症の「第2波」という言葉が消えたのか。リスクに対する認識が変わったのか。9月17日の会見で、黒田氏に直接聞いてみた。
まず黒田氏から返ってきた答えが「特別に意図的に、何か変えたつもりはない」というものだった。日本ではすでに6~8月に第2波とされる感染再拡大があったが、「第2波かどうかということよりも、(感染症が)収束せずに経済活動に影響を及ぼすことにならないかが引き続き大きなリスクだ」と説明した。
つまり第2波、あるいは第3波といった感染拡大そのものよりも、それに伴う外出制限や営業自粛といった経済活動への悪影響がリスクとして大きいと指摘したのだ。逆に言えば、第2波(日銀はとくに第2波などと定義していないが)のときのように感染が再拡大しても、経済活動と両立できれば、緊急事態宣言が発動された第1波のような経済への悪影響はある程度抑えられるということになる。
国内の新型コロナは、1~5月にかけて流行の第1波が起きた。緊急事態宣言などにより感染者は減少したが、5月25日に解除されると再び増加。第2波とされる6~8月は、第1波以上に感染者が出ている。
ただ、第2波は軽症者が多く、抗炎症薬や抗ウイルス薬を使った治療の普及などにより死亡率も低下している。飲食店に対する営業時間短縮の要請や医療機関での集団感染防止策も、功を奏したとみられる。
内閣府によると7月の景気動向指数(平成27年=100)は、景気の現状を示す「一致指数」の基調判断が12カ月連続で「悪化」となった。ただ、7月の一致指数は前月比1.8ポイント上昇の76.2と2カ月連続で改善。経済は最悪期を出しつつある。
もっとも、黒田氏は新型コロナについて「現時点で最も重大なリスク要因」と指摘することも忘れなかった。緊急事態宣言が出た4~6月期の国内総生産(GDP)は年率換算で28.1%減と戦後最悪。7~9月期はプラス成長となる見通しだが、感染再拡大とそれに伴い経済活動の縮小すれば、景気が一段と冷え込む恐れも否めない。(大柳聡庸)