SNSを駆使して官製世論
日本ではGoToトラベルだが、今、中国はGoTo丹東が熱い。中朝貿易最大の都市である丹東が反米シンボルとして、中国政府がSNSを駆使して官製世論を作り出してきた。
10月25日は中国が朝鮮戦争参戦70周年ということで盛り上がりは最高潮に。今後も米中関係の悪化は続くとみられることから、中国政府は国内の不満が内(中央政府)へ向かわないように外(アメリカ)へ向け、朝鮮戦争や反米を用いて愛国心を刺激し、反米を煽るようなキャンペーンを継続すると思われる。
その反米の象徴とされたのが丹東である。1950年10月19日に毛沢東が命名した中国人民志願軍が丹東から鴨緑江を渡り、25日に正式参戦したという歴史があるためだ。
米中貿易が深刻化する中で中国発、新型コロナウイルス拡散によって米中関係はさらに悪化。それもあり今年は早くから10月25日が中国メディアへ頻繁に登場していた。
近年、中国では朝鮮戦争とは表記せず「抗美援朝戦争」と表記することが多い(美は中国語で米国を意味する)。
抗美援朝とは、アメリカの侵略に抵抗し北朝鮮を助けるという意味で、「中国は米侵略に対してやむを得ず強国アメリカに立ち向かった大義ある自衛戦争」との意味を含む。
現代中国史観では1949年の中華人民共和国成立後、1度たりとも他国への侵略を目的とした戦争はしていないとなっている。すべての戦争は中国を守るために応戦した自衛戦争だと主張する。中国がこのような歴史観に基づき中国人を教育していることは知っておく必要がある。
クライマックスへ向けて着々と盛り上げ
中国政府は9月に入り、GoTo丹東の動きを加速させ始めた。9月11日から「第1回丹東インターネットフェスティバル」を始めた。丹東の魅力をオンラインで発信する趣旨だが、よく見ると、主催する『丹東日報』が以前から運営するサイトのトップページに突貫工事的な1ページを追加したもので、各コンテンツは既存のものがリンクされているだけだった。5、6年前の古い情報で構成されていて、急ごしらえ感が拭えない。
さらに2014年12月30日からリニューアル工事で休館していた「丹東抗美援朝記念館」を約6年ぶりに9月20日に再館させた。同記念館は、単体の軍事記念館では中国1の規模を誇り、反米色を全面に出した中国唯一の施設となる。
中国のSNS「微博(ウェイボー)」や動画共有サイト上では、リニューアルオープン前なのに丹東抗美援朝記念館へ行ってきた的な動画が大量にアップされた。インフルエンサーを動員して作らせた官製動画だとみられる。
他にも従軍した中国人民志願軍の元兵士へのインタビュー動画などを大量に観ることができる。現時点でも国際ニュースの多くを朝鮮戦争関連の記事や動画が埋め尽くしている。
丹東抗美援朝記念館では22日から25日にかけて連日イベントを開催し、22日には丹東北、鴨緑江沿いに「志願軍公園」なる軍をモチーフにしたいわば軍事公園を開園。23日には習近平国家主席が中国の最高指導者としては20年ぶりに朝鮮戦争参戦を記念する式典で演説を行い、アメリカに勝利したなどを強調するなど、25日のクライマックスへ向けて着々と盛り上げた。
「抗美援朝精神」と「志願兵」
中国の官製報道を観ていると繰り返し登場するのが、「抗美援朝精神」と「志願兵」だ。
前者は、北朝鮮だけが主張する「朝鮮戦争は北進によって始まった」という史観に基づく。事実、中国も80年代までは北朝鮮同様に北進で歴史を教えていたようだ。しかし、ソ連崩壊後に明らかになった機密文書で、朝鮮戦争のきっかけは北朝鮮による「南進」だったことが事実として確定後の現在は、中国の公式史観でも北朝鮮による南進が朝鮮戦争のきっかけとなっている。そう、完全に矛盾しているのだ。
中国政府は、あくまで当時の偉大な精神として都合よく分離することで、抗美援朝精神を繰り返し登場させているのだろう。
後者の志願兵は、中国が積極参戦したものではないという意思を示すために毛沢東が中国人民解放軍東北辺防軍を中国人民志願軍と命名した経緯がある。
志願は日本人が作り中国へ逆輸入された和製漢字なので、意味は同じだ。ボランティア、つまり、望まない戦争だが平和を守るために中国が自発的に立ち上がって侵略国アメリカと戦った。そして中国政府は勝利した、と一方的に言っており、対米戦勝利へ導いた中国共産党への求心力集めにも活用している。
また、最近の一連の官製報道を観ていると、現在は“台湾を侵略しようとしているアメリカへ断固対抗しないといけない”とのすり替えが始まっているように感じさせる。
冷めた目で見ている人も
もっとも中国人の中には冷めた目で見ている人も少なくない。著者が連絡をとる中国人は、「朝鮮戦争のニュース、映像ばかりで日本のニュースがない」と嘆き気味。異常だと感じるが、表立って批判する人はいないという。
丹東抗美援朝記念館は新型コロナ対策で事前にオンライン予約が必要だ。午前・午後でそれぞれ1500人の入館制限をしている。官製インフルエンサーまで動員してSNS中心に盛り上げたがリニューアルオープン当日9月20日もチケットは半分以上残っていた。
ちなみに中国の博物館や記念館はすべて無料。“教育”と位置づけられているからだ。日本人も無料なので、また渡航できるようになったら訪れてみるといいかもしれない。
リニューアル前には満州国や日中戦争コーナーがあり、事実とは程遠い日本関連の展示もあったので、どう変わったかぜひ確認したい。(筑前サンミゲル/5時から作家塾(R))