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新政権で成長会議メンバー外れた経団連 異例の提言ラッシュの背景 

 【経済インサイド】

 経団連が異例のペースで提言を取りまとめ、公表している。菅義偉(すが・よしひで)政権発足からの1カ月で出した提言の数は10件を超える。通常は月間2、3件、多くても5件前後だが、新政権への経済政策などへの反映を狙うため急ピッチだ。背景には新政権の経済政策の決定プロセスがはっきりしていないことへの危機感や存在感が高かった中西宏明会長の病気療養の影響を補おうとする思惑が垣間見える。

 経団連が矢継ぎ早に提言を打ち出しているのは、菅政権の経済政策の方向性とその決定プロセスが明確でない中で、経済界としての方向性を先行して提案することが大きな狙いだ。

 安倍晋三前政権では成長戦略は未来投資会議で議論・策定し、中西会長もその中核メンバーだった。しかし、菅首相は経済産業省出身官僚らが主導してきた未来投資会議を廃止し、新たに「成長戦略会議」を立ち上げるなど、安倍政権時代とは手法を変えてきている。

 成長戦略会議には、財界から日本商工会議所の三村明夫会頭と経済同友会の桜田謙悟代表幹事が有識者メンバーに選ばれているが、経団連の会長、副会長は選から漏れた。成長戦略会議よりも上部の会議体となる経済財政諮問会議の民間議員を中西会長が続けるため、成長戦略の大きな方向性では経団連の意見が反映されるという読みはあるが、こうした動きも経団連側の焦りを誘っている。

 10件超の提言の内訳をみると、新政権の政策課題に対応したものが目立つ。

 9月18日には教育分野でのデジタル活用を求めた「EdTech推進に向けた新内閣への緊急提言」を発出。同23日には「デジタル庁の創設に向けた緊急提言」を出し、同庁に他省庁よりも大きな権限を与えるよう求めた。さらに10月13日には、規制・制度改革に関する提言や、株主総会におけるオンラインのさらなる活用などを提言している。

 もともと経団連は人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)、ブロックチェーンなどの技術を活用して社会をデジタルで変革させる「ソサエティー5・0」の実現を最重要課題として打ち出している。ソサエティー1・0は狩猟社会、同2・0は農耕社会、同3・0は工業社会、同4・0は情報社会という組み立てだ。

 菅政権が強調するデジタル化はまさに、経団連の方向と合致する。同時に、その推進には規制改革が欠かせないという思いがある。そのためこれらのテーマに沿った緊急提言となった。

 さらに11月には経団連が大型と位置付ける新成長戦略の提言が予定されている。新型コロナウイルス感染収束後を意識したもので、企業がさまざまな社会的な課題を解決することで収益を上げ、存続、発展していくことを経営の根幹に据える「サステナブル資本主義」への転換を強く打ち出す予定だ。

 地球温暖化の大きな要因となっている二酸化炭素(CO2)をアンモニアなどに変換して有効活用することや、水素の利用促進など、気候変動対策の各種技術を問題解決型の新事業として世界的に展開する「グリーン成長」なども成長戦略の柱の一つに据える。

 中西会長体制下の経団連“ビジョン”という位置づけで、最終的な取りまとめ作業に入っている。素案についてはすでに中西会長が政府関係者に示しており、政府の成長戦略への反映に向けた調整に着手している。

 今後の焦点は、来年度予算編成と、来夏にまとめられる予定の骨太の方針で示されるとみられる菅政権の経済政策「スガノミクス」に、どのように経団連の主張を反映させていけるかだ。

 リンパ腫再発で入院中の中西会長の体調も気がかりだ。現在は病院からオンラインで会議に出席するなどしているが、会長自身は「11月に入れば、今後の治療態勢も判明する」と語っている。政府関係者も「経済政策で中西会長の存在感は極めて大きい」としており、実際に諮問会議などに出席して議論をリードできるかも鍵となる。(平尾孝)