海外情勢

米大統領選 大接戦に世界が戦々恐々、各国・地域にそれぞれの思惑

 米大統領選を制するのは共和党のトランプ大統領か、それとも民主党のバイデン前副大統領か-。世界中の国・地域がそれぞれの思惑を込めながら、接戦にもつれ込んだ選挙戦の行方を注視した。米中対立の渦中にある中国は、バイデン氏当選を期待しているかと思いきや、必ずしもそうでない。中東諸国は、次の大統領によって米国のイランやサウジアラビアに対する政策が様変わりしかねないとみている。

中国 両候補に一長一短 厳しい対中姿勢を覚悟

 【北京=西見由章、上海=三塚聖平】トランプ米政権から多方面の圧力を受けている中国にとっては、トランプ氏とバイデン氏のどちらが当選しても“一長一短”がある。いずれにしろ、米国の厳しい対中姿勢は党派を超えて長期的に継続されるとの見方が広がっている。

 中国の習近平国家主席は4日、上海で5日開幕する「中国国際輸入博覧会」に関するビデオ演説で、「各国は唯我独尊となったり、人に損を与えて己も傷ついたりすべきではない」と強調した。その上で「一国主義や保護主義で国際的な秩序やルールを損なうことは許されるべきではない」と述べ、対立を深めるトランプ米政権を暗に牽制(けんせい)した。

 トランプ政権は中国共産党の脅威を強調し、ハイテク分野を含む米中経済のデカップリング(切り離し)を進めている。中国の習近平指導部にとっては交渉の余地が限られ、極めて扱いにくい相手だ。ただ、中国人外交研究者は「米国内を分断させ、国際組織からの脱退も進めるトランプ政権には、中国に都合がよい側面もある」と指摘する。

 一方でバイデン氏が政権を握った場合、欧州や日本などの同盟国と連携を強め、トランプ氏より強力な「中国封じ込め」を展開することへの警戒感がある。

 中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報は4日付の社説で、トランプ、バイデン両氏が大統領選を通じて「自分の方が中国により強硬だという奇妙な競争を繰り広げた」と批判した。

 台湾 双方と等距離確保に苦心

 【台北=矢板明夫】台湾の蔡英文政権は、共和党のトランプ氏と民主党のバイデン氏のいずれにも、「肩入れせず、双方と等距離の関係で米国とのパートナーシップを深化する」との姿勢をアピールしている。

 台湾にとって対米関係の維持と拡大は、安全保障や技術交流、貿易でも最重要の課題。米中関係の変化をにらみつつ、選挙結果によって米台関係がわずかでも揺らぐことのないよう、細心の注意を払ってきた。

 蔡政権はトランプ政権と親密な関係を築いた。中国の軍事脅威を背景に武器供与を求め、台湾重視の姿勢を強めたトランプ政権から続々と承認を得た。武器供与の見返りに、米側の要求も受け入れたようだ。

 トランプ政権の誘致を受け、半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)が大統領選の激戦区であるアリゾナ州に最新鋭工場を建設すると5月に発表した。TSMCの経営陣を蔡氏が自ら説得したとされる。蔡政権は8月、長年懸案だった米産豚肉の輸入も決断している。

 台湾メディアは、強硬な対中姿勢をとるトランプ氏を歓迎していた。一方、10月30日に米紙ワシントン・ポストが「蔡政権は共和党寄り」などとする記事を掲載すると、台湾の外交部(外務省に相当)はあわてて「否定声明」を発表。蔡氏は翌31日に招集した国家安全会議で、「米国のいずれの政党とも平等に交流する」と確認するなど、ピリピリした対応を示した。

 韓国 対北融和願いバイデン氏に警戒感

 【ソウル=桜井紀雄】韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権は、接戦が伝えられる米大統領選の推移を複雑な思いで見守っているもようだ。一つには選挙結果が即、文大統領が最重要課題とみなしてきた対北朝鮮政策の行方を左右するからだ。

 文氏はトランプ大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長による2018年の史上初の米朝首脳会談を高く評価し、南北融和推進の原動力としてきた。

 ベトナム・ハノイでの昨年の再会談の物別れ以降、米朝間の非核化交渉は停滞しているものの、トランプ氏は選挙後、速やかに北朝鮮と交渉する意向を示しており、トランプ氏の再選で米朝交渉が再始動すれば、中断した南北対話も息を吹き返す可能性がある。

 一方、バイデン候補は、トランプ氏が金氏と会談を重ねて「北朝鮮を正当化した」と批判しており、大統領に就任すれば、トップダウン式から実務者協議を積み重ねるボトムアップ式に交渉方法を改める可能性が高い。金氏はこの交渉スタイルに拒否感を示しており、文氏の残る約1年半の任期内に米朝交渉が進展しない事態も想定される。

 トランプ氏は在韓米軍の駐留経費交渉で韓国側に大幅な負担増を迫り、協議が平行線をたどるなど、安全保障政策をめぐって文政権は、トランプ氏の意向に振り回されてきた。バイデン氏は米韓同盟を重視する姿勢を見せており、韓国内にはバイデン氏の大統領就任で駐留経費交渉が妥結することを期待する声もある。

 中東 対イラン、サウジ政策の違いを注視

 イランのロウハニ大統領は4日、米大統領選について「誰が勝利しようとも、重要なのは政策や原則だ」と述べ、次期大統領に制裁という選択肢を避けるよう求めた。イランに数多くの制裁を科してきたトランプ大統領を批判し、バイデン候補の方が望ましいとの考えを示唆したとみられる。

 米オバマ前政権は2015年、イランが核開発を抑制する見返りに欧米などが経済支援を行うとする核合意を締結。バイデン氏は同政権を中枢で支えた。18年に核合意から離脱してイランへの制裁を再開したトランプ氏に対し、バイデン氏は条件付きで核合意に復帰し、イランへの関与政策にかじを切る方針を示す。

 トランプ政権は今夏以降、イランの脅威を封じ込める「包囲網」構築のため、イスラエルとアラブ3カ国の国交正常化を仲介した。トランプ氏が再選されれば米・イスラエルなどとイランの軍事的緊張が高まる局面も排除できず、対イラン政策は次期大統領しだいで大きく変化しそうだ。

 一方、バイデン氏が当選した場合、親米アラブの盟主を自任するサウジアラビアとの関係が冷え込むとの見方がある。在トルコのサウジ総領事館で起きた反体制記者殺害事件などの際、友好関係を優先して批判を控えたトランプ氏に対し、人権抑圧に敏感なバイデン氏はサウジとの関係を見直す意向も示している。米・サウジ関係に変化が生じれば、中東情勢全般に影響を与える可能性がある。(中東支局 佐藤貴生)

 ロシア 関係改善は困難と諦観

 【モスクワ=小野田雄一】ロシアは、トランプ氏とバイデン氏のどちらが勝利しても米露関係が直ちに改善することはないと諦観している。ロシアと親和性が高いと考えられたトランプ政権下でも米露関係は好転せず、バイデン氏はロシアの非民主的な体制に拒否感を示しているためだ。

 ロシアによる2014年のウクライナ南部クリミア半島併合や、16年の米大統領選干渉問題などで米露関係は極度に悪化した。トランプ氏は、ロシアの主要8カ国(G8)への復帰を提案するなど、ロシアに融和的な態度を示してきた。トランプ政権がシリアなどからの米軍撤収を急いだことも、ロシアの影響力拡大に好都合だと考えられた。

 だが、ロシアにとって目立った成果はなかった。トランプ政権はロシアの違反行為や中国の台頭を理由に中距離核戦力(INF)全廃条約を破棄。来年2月に期限が切れる新戦略兵器削減条約(新START)の延長問題でも結論が出ていない。米国は、露-欧州間の新たな天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」の関係企業に対する制裁も発動した。

 バイデン氏は新START延長の必要性にたびたび言及しており、この点は、米国との軍拡競争を懸念して条約延長を主張してきたロシアに有利となる。ただ、バイデン氏はロシアを「米国の重大な脅威」と呼んでおり、「バイデン氏がロシアに融和姿勢を取る可能性はほぼない」(露専門家)との見方が支配的だ。

欧州 分断と混乱の長期化に備え

 【パリ=三井美奈】米大統領選をめぐり、4日付のフランス紙フィガロは社説で、「米国の分断が、どんなに広がっているかを示す選挙になった」と評した。トランプ大統領が新型コロナウイルス禍や経済低迷、人種問題などの逆風を受けながら、バイデン前大統領との接戦に持ち込んだのは、「トランプ氏の『米国第一』が広く支持されたということだ」と指摘した。

 英国のラーブ外相は4日、BBC放送に出演し、「(両候補の)得票は伯仲しているが、米国の制度が結果を示してくれるはずだ」と述べ、大統領選でどちらが勝っても米国とは良好な関係が築けると訴えた。

 トランプ氏が勝利に自信を見せ、結果を法廷闘争に持ち込む姿勢を示したことについて、記者に「これが正しい態度だと思うか」と質問されると、ラーブ氏は「結果判明には数日かかるかもしれない」と言葉を濁した。

 米大統領選をめぐる混乱長期化の可能性が浮上する中、欧州では、米国との外交問題は当面棚上げになるとの見方が出ている。

 欧州連合(EU)議長国、ドイツのマース外相は10月末、独紙ウェルトで「米国が内政にとらわれ、世界に対する関与が薄れても、欧州はそれに対応していかねばならない」と主張。欧州が、独自に危機を解決する能力を高めるべきだと訴えた。「米国では大統領選を通じて分断が広がった。選ばれた大統領が解消に取り組まなければ、不安は続く」とも述べた。