菅新政権の課題 エネルギー政策の正常化を 社会保障経済研究所代表・石川和男
最近、「脱石炭は世界の潮流」と盛んに吹聴される。実態は違う。世界各国の石炭消費量を見ると、日本は中国、インド、米国に次ぐ4位で、全体の3%にも満たない。上位3カ国が脱石炭の方向に進まない限り、世界の石炭消費量は減らない。中、印、米が国を挙げて脱石炭を掲げる気配はない。
◆報じられない世界の実態
日本は何ができるか。超々臨海圧発電(USC)や石炭ガス化複合発電(IGCC)など世界屈指の高効率火力発電技術を輸出すれば温暖化防止に貢献する。日本と輸入国の双方の国益にかなうはずだが、そうした提案をメディアが報じることはまずない。
多くのメディアの姿勢には、原子力報道と共通するものがある。「世界は脱原発に向かっている」としきりに報じるが、中国やロシアは原発の開発・輸出を進めている。フランスは電源の約7割を原子力に依存。米国も新型炉の開発に積極的で、今年9月には新しい小型炉が承認された。世界6位の原油埋蔵量を誇るアラブ首長国連邦(UAE)で原子力発電所が竣工(しゅんこう)したのは今年8月。世界的には、脱原発どころか、原発推進なのだ。
米、露、中などエネルギー資源大国が原発を積極的に活用している中で、日本国内の原発の再稼働は遅々としている。メディアで大々的に取り上げられるのは再エネ。「再エネ」と一口に言っても、主要5種類(太陽光、風力、水力、バイオマス、地熱)はそれぞれ全く異なる。
水力は、国内では大型発電所は既に開発し尽くされた。中小発電所も効率を上げない限り、新設は容易ではない。地熱では世界3位の資源賦存量とされる日本。しかし、地熱を掘り当てる技術はまだまだ開発途上。しかも、火山活動が活発な地域や温泉施設が集まる観光地や、自然公園法で保護された場所での開発は難儀。有望な資源だが、実用化への道のりは険しい。
バイオマスについては、燃料の調達方法に課題がある。日本はパーム油などバイオマス燃料の大部分を輸入しているが、タンカー輸送では大量の二酸化炭素(CO2)を排出。国産燃料に切り替えて運搬や加工のコストを抑えられれば、バイオマスは優位な電源となり得る。風力は、立地が容易で風況の良い地域が限定される日本では、そう簡単ではない。さらに、風力発電施設が近隣の景観を損なう恐れがあり、海外では風力の低周波がもたらす人体への悪影響も指摘される。日本でも、地元の同意を得るのが難しい局面が増えている。
今のところ、再エネの主力はメガソーラーを中心とした太陽光発電。日本の太陽光発電量は中、米に続いて世界3位。日本を「再エネ後進国」と見る向きもあるが、実際には「再エネ先進国」といえる。その証拠に、メディアが“お手本”として例に出すドイツより、発電量で勝っている。
◆利点多い原子力
原子力は桁違いの発電効率を誇り、CO2を排出しないクリーンな電源。既設の原発は日本全国にあるが、安倍前政権は再稼働への指導力を発揮してこなかった。ベースロード電源である石炭火力は休廃止、多大なコスト負担を消費者に背負わせながら人為的にコントロールできない高コストで不安定な再エネの導入を急速に進めてきた。
再エネの不安定性を克服していくには蓄電システムの普及が肝要だが、まだまだ時間が必要。
近年のエネルギー報道は「脱〇〇」「地球温暖化防止」など歯が浮く言葉だけが飛び交っている。だが本来は、数学・工学的な知見から判断すべき事柄のはず。
菅政権には、これまで以上に積極的にエネルギー・環境政策について議論してもらいたい。安価で安定的、かつ環境にも配慮される既設原発のフル活用による「原子力正常化」と既設原発収益を財源とした再エネ振興を実現することが、結局は最も効果的だ。
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【プロフィル】石川和男
いしかわ・かずお 東大工卒、1989年通商産業省(現経済産業省)入省。各般の経済政策、エネルギー政策、産業政策、消費者政策に携わり、2007年退官。11年9月から現職。他に日本介護ベンチャー協会顧問など。福岡県出身。