包囲網切り崩し狙う中国の「アメとムチ」
中国の王毅・国務委員兼外相が先月24、25の両日来日し、菅義偉首相や茂木敏充外相らと会談した。9月に菅政権が発足して以来、日中要人の会談は初めてである。(産経新聞客員論説委員・五十嵐徹)
双方はビジネス関係者の往来再開や閣僚級の「ハイレベル経済対話」を開くことなどで合意したが、尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺への中国海警局公船による領海侵入については認識がかみ合わず、溝の深さが際立った。
経済てこに日本利用
茂木氏は外相会談後の共同記者会見で「率直かつ充実した内容の会談だった」と笑顔で振り返ったが、王氏は「日本の漁船が敏感な海域に入っている。中国はやむを得ず反応しなければならない」と一方的な主張を繰り返した。
産経は11月26日付主張(社説)で「王氏の暴言、詭弁(きべん)にはあきれるばかりだ」と批判しつつ、茂木氏に対しても「中国のさまざまな問題行動に対する日本や国際社会の怒り、懸念をもっと明確に伝え、中国に翻意と反省を促すべきだった」と批判した。
茂木外相が記者会見の場で直ちに明確な反論をしなかったことについては、与党内にも「弱腰だ」とする批判が広がっている。慌てた茂木氏や政府は、その後「王氏の発言は受け入れられないと(中国側に)伝えた」と弁明したものの、後の祭りで、してやられた感は拭えない。
今回の会談は中国側が強く望んだものだという。招いた日本としては、結局テレビカメラの前で王氏に言いたい放題を許す場を提供しただけだった。日本の外交下手があらためて浮き彫りになった格好だ。
会談では、中国が期待する習近平国家主席の国賓来日については話し合われなかったという。朝日11月27日付社説は「現状は、習氏を日本国民がわだかまりなく歓迎できる環境とはいえない」と残念がったが、当然だろう。
中国は、言葉では日中関係の重要性を強調するが、経済力、軍事力の増大にともない“大国の驕(おご)り”を隠さなくなっている。
日本の民間非営利団体「言論NPO」などが今秋行った日中共同世論調査では、中国の印象を「良くない」と答えた人が昨年より増え、9割近くに達した。こうした日本の世論の変化を中国側はどう受け止めているのだろうか。
中国としては、いち早くコロナ禍から立ち直りつつある経済をてこに、国際社会で存在感を強めようとしている。今回の日本訪問にも、その一環として利用する戦略的思惑が見え隠れする。
中国は、米中間で揺れ動く日本の足元をよく見ている。多くの日本企業は、コロナ禍で痛い目にあった中国一辺倒のサプライチェーン(供給網)を見直す機運がうかがえるが、回復基調にある中国市場は依然、頼みの綱だ。
米政権の空白期狙う
中国側も、供給網で「脱中国」を目指す日本の動きには神経をとがらせている。ビジネス関係者の往来再開は、日本企業の強い求めに応じた形だ。中国としては、日本企業を中国市場に引き付けておく思惑が背後にちらつく。
あわせて米国は、トランプ大統領から民主党のバイデン前副大統領に代わる政権移行の空白期にある。米中関係で主導権を取りたい中国には絶好のチャンスと映るはずだ。日中の接近を演出することは日米の同盟関係にくさびを打ち込むことにもなる。
日米がオーストラリア、インドとともに「自由で開かれたインド太平洋」をスローガンにスクラムを組む動きにも、中国は焦りがある。対中警戒感が欧州に広がりつつあることも気がかりだ。
先日、日中を含む東アジアを中心とする15カ国が関税削減や貿易ルールの統一で合意・署名した「地域的な包括的経済連携(RCEP)」協定でも、中国は譲歩する姿勢を示した。しかし、期待された国営企業に対する過剰な保護政策など、中国にとって撤廃されると不都合な経済慣行は残されたままだ。
習主席は先頃、米国が離脱したままの環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に参加を検討する意向を示したが、これも米国主導の「中国包囲網」を牽制(けんせい)する動きといえるだろう。
多国間貿易において中国が主導権を握ろうとする動きについて11月27日付日経社説は中国にとって「TPP参加が単なる経済問題ではなく、国際政治戦略上の意図を持つ証拠」との見方を示し、「米中の力学を含め国際情勢は大きく動いており、十分に注意を払うべきだ」と注意喚起している。