インドが「ワクチン外交」強化 相次ぎ無償提供し中国に対抗、影響力拡大狙う
【シンガポール=森浩、北京=三塚聖平】途上国が新型コロナウイルスのワクチン確保に苦しむ中、インドが無償提供を通じて「ワクチン外交」に乗り出した。手始めに近隣諸国への無償提供を開始し、順次拡大していく方針。モディ首相は「インドのワクチンは世界を救う」と強調しており、アジア各国で影響力を強める中国にワクチンで対抗していく構えだ。
「世界の薬局として新型コロナを克服するため、(ワクチンを)供給する」
インドのジャイシャンカル外相は19日、無償提供に先立って、こうツイートした。インドは世界の感染症ワクチンの6割を製造した実績がある“ワクチン大国”。「世界の薬局」という自信は、その生産能力によるものだ。
インドは翌20日以降、ミャンマーに150万回分▽ネパールに100万回分▽バングラデシュに200万回分-をそれぞれ無償で提供。ブータンとモルディブにもそれぞれ15万回分、10万回分を空輸した。提供したのは、いずれも英製薬大手アストラゼネカが開発し、インド企業が製造したものだ。インド政府はこのワクチンの商業輸出も認め、22日にはブラジルとモロッコに向け出荷された。
無償提供の対象となった各国では近年、中国が巨大経済圏構想「一帯一路」による資本投下などを通じて存在感を高めている。インドが伝統的に影響力を保持してきた国も多く、ワクチン提供を通じて対抗する狙いがある。
ネパールは、インドのワクチンについて「善意を示している」とのコメントを発表。同じ共産党政権である中国と関係が深まる中、インドに感謝を示した。バングラデシュは当初、中国の製薬大手、科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)製ワクチンの国内臨床試験(治験)を開始する予定だったが、費用負担で同社と折り合いがつかず頓挫。インドの無償提供に飛びついた。
インドと同じくワクチン外交を強化する中国は、王毅国務委員兼外相が今月に入ってアフリカと東南アジアを歴訪し、各国で医療面での協力を申し入れたばかりだ。ミャンマーでは王氏もワクチン30万回分の無償提供を申し入れており、中印による“提供合戦”の様相を呈している。
また、中国はインドに対抗するように21日、インドの隣国で宿敵であるパキスタンに50万回分のワクチンを無償提供することを決定した。
中印はインド北部カシミール地方で両軍による対峙が継続するなど関係が冷え込んでいる。インド外務省関係者は「ワクチン提供を通じての対立も激化していく」とみている。