新型コロナ収束に向け、スマートシティーが急速に進化
中国では、新型コロナウイルス感染収束のため多くのデジタル技術・サービスが用いられたが、これらはコロナ後を見据えた日常生活での利用にも期待がかかっている。本稿では、中国においてデジタル技術・サービスが感染収束から都市運営の高度化・住民の利便性向上にベクトルを変え、新たな発展を遂げている事例を紹介したい。(野村総合研究所・丹羽健二)
感染対策に活用
中国では感染収束のため既存のビッグデータのプラットフォームが活用されたほか、新たなデジタル技術・サービスも多く用いられた。
まず、「国家報告システム」によるビッグデータを活用した感染者の監視や感染クラスターの特定、および巨大プラットフォームを活用した感染状況の発信・注意喚起が行われた。このプラットフォーム上では交通機関、病院など公共部門のオープンデータを公開し、「微信(ウィーチャット)」、決済アプリ「支付宝(アリペイ)」、「百度(バイドゥ)地図」など既存プラットフォームから情報発信することで新規感染者の増加数、死亡例など感染情報の周知が図られた。既存プラットフォーマーが持つ感染者の移動履歴などを元に、詳細な感染マップの作成や感染者が利用した公共交通機関の公開による注意喚起も行われている。
密集を避けるため、人が行っていた作業を代替する新サービスも普及した。浙江省では医薬品のドローン輸送が試験的に導入されたほか、レストランにおける料理の提供シーンには配膳ロボットが開発され、接触の減少に一役買っている。
そしてとりわけ注目されるのは、河北省廊坊(ろうぼう)市のスマートシティー化だ。同市はコロナ以前から積極的に取り組み、2019年には華為技術(ファーウェイ)と提携して「スマートシティー運営管理センター」の運用を始めている。
この運営管理センターは同市各部局の持つデータを横断的に統合するプラットフォームであると同時に、市内で起こる多種多様な事態に対応するための「司令塔」でもある。具体的なケースとしては監視カメラの画像データを用いた異常検知などがあり、火災が起きた際には発生場所の特定に加え消防署への通報、緊急避難場所の確認や避難誘導のための関係者への指示など、総合的に対応できる。
この「都市の頭脳」は感染対策にも活用され、管轄区内の43カ所でPCR検査を実施した際には、常時ビデオ通話で現場状況を把握しながら運営管理センターが指揮を執ることで、ほぼ1日で地区内全13万人の検査を完了した。こうした有用性から、第2期へのアップデートおよび第5世代(5G)移動通信システムなど最新技術活用によるユースケース拡充に期待がかかっている。
このように、同市ではデジタル技術が社会に定着することでさらなるスマートシティー化が進んでいる。市業務のオンライン化も急速に進み、20年末現在で政府が提供するサービスのオンライン利用可能率は97%に達するなど、デジタルトランスフォーメーション(DX)が加速している。
日常生活にも波及
民間事業者も巻き込んだITとリアルの融合も進み、スマートシティーにおける市民生活の一歩先を示しうる事例となっている。市内では昨年9月、地元のスタートアップ企業である智恵新倉購が4800平方メートルのショッピングモールをオープン。ここで売られる商品は全てIoT(モノのインターネット)でトラッキングされており、消費者は商品の産地や物流経路を追跡して安心・安全に買い物ができる。
デジタル化は農業生産にも及び、植物工場に関する技術開発やクラウドサービスを活用した農業データの分析・活用も始まっている。既に120を超える市内農家・協同組合がこうしたクラウドサービスを活用しているという。
中国において、デジタルを活用した実生活の利便性向上は、既に当たり前に行われつつある。農業を含めた商品の生産工程でさらなるデジタル化が進めば、生産・流通・小売りがデジタルプラットフォームによって一気通貫で結合することになる。廊坊市では、こうしたプラットフォームにより農場から24時間以内にコミュニティー(社区)に野菜が届く仕組みも整いつつあり、今後も住民の利便性を高めるサービスが続々と登場することが見込まれる。
【プロフィル】丹羽健二 にわ・けんじ 2016年野村総合研究所入社。グローバルインフラコンサルティング部コンサルタント。専門はスマートシティー、エネルギー、モビリティーに関する新規事業戦略。