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熱失う北方領土交渉、コロナで対面会談なし 元島民「政府方針見えない」

 7日の「北方領土返還要求全国大会」で、ロシアとの平和条約交渉に改めて意欲を見せた菅義偉首相だが、取り巻く環境は厳しい。新型コロナウイルスの感染拡大でプーチン大統領との対面の会談は実現せず、北方四島の交流事業や共同経済活動なども停滞する。両国の交渉進展に向けた熱が急速に冷める中、元島民らからは政権の本気度を不安視する声も上がる。

 「菅さんは安倍晋三前首相の何を引き継いでいるのか。今の政府の方針が見えてこない」。元島民の一人はこう述べ、来賓の野党党首らが会場を訪れた一方で首相や河野太郎沖縄北方担当相らがビデオメッセージなどでの参加だったことに無念の思いを明かした。

 安倍氏はプーチン氏と27回の対面会談を行い、国後(くなしり)、択捉(えとろふ)両島の返還に触れない日ソ共同宣言を重視する姿勢を示してまで交渉を前進させようとした。昨年までの大会のアピールがロシアを刺激する「不法占拠」の表現を使わなかった背景には、政府の交渉を後押ししたいという元島民らの思いもあった。

 首相は昨年9月のプーチン氏との電話会談で、安倍氏の方針を受け継ぐ考えを示した。周囲にも早期の直接会談への意欲を語っているが、実現できていない。

 新型コロナの影響で昨年は元島民による墓参などの交流事業が中止になった。共同経済活動も双方の法的立場などがからみ、本格的な事業化が遅れる。

 一方、ロシア国内では、当局が反体制派指導者のナワリヌイ氏を拘束、収監したことなどを受け、プーチン政権に対する抗議デモが相次ぐ。外務省幹部は「政権の基盤を揺るがす事態にはなっていない」と分析するが、欧米諸国は一斉に反発。人権問題を重視するバイデン米大統領は、ロシアとの対決をためらわない姿勢を鮮明にしている。

 閣僚経験者は「北方領土問題はロシアの国内事情に左右されてきた。これまで安倍-プーチンの関係で何とか交渉を進めてきたが、それも難しくなった」と話す。元島民らの高齢化で一刻の猶予もない中、菅政権の領土交渉は岐路に立っている。(田村龍彦)