災害続き高まる「イスラム意識」
2021年に入ってからも、インドネシアでは新型コロナウイルス感染者が増え続けている。1月26日現在で累計101万人を超え、死者は2万8000人に上る。2億7000万人を抱える人口大国とはいえ、感染者数は東南アジア域内で突出している。
いち早く「喜捨」集め
そうした中、1月だけでも数々の自然災害に見舞われた。西スラウェシ州での地震、南カリマンタン州、北スラウェシ州での豪雨による洪水と土砂崩れ、中部ジャワのムラピ山、東ジャワのスメル山では、溶岩が噴き出し噴煙が上がった。西ジャワ州でも大規模な土砂崩れが起きた。インドネシア各地で何十万もの人々が、着の身着のまま避難し、災害によるショックと、コロナ感染の恐怖におびえながら避難所で不安な夜を過ごしている。まさに複合災害の真っただ中にあるインドネシアの状況は、同じく自然災害が多発する日本もひとごとではない。
政府も災害対応に追われているが、避難した住民の支援をいち早く行っているのが、多くの民間団体である。その中で、資金規模も緊急支援の経験の豊富さという意味でも、ムスリム(イスラム教徒)の義務である「ザカート(喜捨)」を集める財団の人道支援は大きな役割を担っている。近年のイスラム意識の高まりを受けてザカートの金額も増えており、コロナ禍において貧困層の支援などザカート財団の人道支援は拡大している。
政治的動員の側面も
さらに興味深いのは、昨年末に逮捕されたリジク・シハブ氏率いるイスラム保守派団体「イスラム防衛戦線(FPI)」が行っている人道支援だ。国内大手や欧米系のメディアからは、イスラム急進派、強硬派団体として紹介され、マイナスのイメージを持たれているにもかかわらず、何故に多くの人々がFPIのメンバーとなり、規模も支持も拡大しているのか。
インドネシア大学のタムリン・タマゴラ教授は「インドネシアの2大イスラム団体であるナフダトゥル・ウラマー(NU)もムハマディアもエリート集団とみなされている。FPIは人々の身近にあり、何かあったときにすぐに対応してくれる存在であるため多くの人々の支持を得ている」と語る。実際に各地で起きた災害の際も、FPIが迅速に人道支援に乗り出し人々に寄り添っている。エリート層からは批判を受けているFPIであるが、集まった寄付やボランティアの数からも、多くの一般市民から信頼され、評価されていることが分かる。
インドネシア人のイスラム意識は、感染症そして自然災害という危機の中でさらに高まっているといわれている。FPIを支持する多くの人々の信仰心と、それを政治的な動員に活用しようとする指導者層。どこを切り取るかでFPIの印象は大きく異なる。エリートの意見だけを聞いていては、米国のトランプ政権誕生が予測できなかったように、インドネシアの政治も見誤るかもしれない。単なるポピュリズム(大衆迎合)として捉えるべきなのか、イスラム意識の高まりとはどういうことなのか、しっかり見極める必要がある。(笹川平和財団 堀場明子)