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注目の米新政権は「第3期オバマ政権」か 多様性強調、民主党の伝統回帰

 去る1月20日、ジョー・バイデン氏が米大統領に就任した。新大統領は78歳、歴代大統領の中では最も高齢での就任だ。ちなみに、ジョン・F・ケネディ(第35代大統領)は43歳で大統領に選出されている。(インド経済研究所理事長・榊原英資)

 次期大統領の有力候補

 バイデン氏の場合、1期務めると82歳、2期目の就任はなかなか難しいかもしれない。

 そこで注目されるのが副大統領。カマラ・ハリス副大統領は黒人女性。父はジャマイカ人移民、母はタミル系のインド人。父はカリフォルニア大学バークレー校で経済学を学び、後にスタンフォード大学の教授になった。

 ハリス氏はハワード大学(BA=学士号)、カリフォルニア大学(PHD=博士号)を卒業後、カリフォルニア州司法長官、上院議員を経て、2020年にバイデン陣営の副大統領候補に選出され、先月20日、副大統領に就任している。

 主要政党初の黒人でアジア系米国人。バイデン大統領が1期で引退すれば、最有力大統領候補なのだ。

 閣僚に女性5人

 副大統領だけでなく、バイデン政権には多くの要職に女性が就任している。財務長官にはジャネット・イエレン氏。第15代連邦準備制度理事会(FRB)議長を4年務めている。クリントン政権では大統領経済諮問委員会(CEA)の議長、サンフランシスコ連銀総裁も務めたベテランの財務・金融の専門家だ。

 イエレン氏は経済学者。カリフォルニア大学バークレー校の教授、ハーバード大学の助教授などを歴任している。

 内務長官はデブラ・ハーランド氏。ニューメキシコ州1区選出の下院議員だった。ラグナ・プエブロ族の一員で、ネイティブ・アメリカンの女性として初めて米国の国会議員に選出されている。

 商務長官にはジーナ・ライモンド氏。エネルギー長官にはジェニファ・グランホルム氏が就任した。

 住宅都市開発長官には黒人女性マルシア・ファッジ氏。合計5人の女性がバイデン政権の閣僚に就任しているのだ。

 ちなみに、トランプ政権では運輸長官(イレイン・チャオ氏)、教育長官(ベッツイ・デボス氏)に女性を起用している。

 また、バイデン政権の国防長官にはロイド・オースティン氏。黒人初の国防長官。13年から16年に米中央軍第12代司令官を務めている。

 閣僚級高官でもハリス副大統領を筆頭にニーラ・タンデン行政管理予算局長、キャサリン・タイ通商代表、アヴリル・ヘインズ国家情報長官、イザベル・グズマン中小企業庁長官と女性の起用が目立つ。

 第3期オバマ政権

 異色なところで、運輸長官には同性愛者(20年の大統領選の出馬表明のとき、自ら同性愛者であることを公表している)のピート・ブティジェッジ氏を起用した。

 ブティジェッジ氏は29歳でサウスベンド市長に就任。12年から20年まで8年間、市長を務めている。

 20年の大統領選への出馬を表明したが、サウスカロライナ州での予備選で敗れ、バイデン氏支持を表明し、政権の運輸長官に指名された。

 副大統領を含め、6人の女性の閣僚での起用、そして要職への黒人の登用と、バイデン政権は多様性を強調している。

 また、オバマ政権のOBやOGを多数起用(大統領首席補佐官ロン・クレイン、国務長官アントニー・ブリンケン、国家安全保障長官のアレハンドロ・マヨルカスの各氏ら)し、“第3期オバマ政権”ともいわれている。

 共和党のトランプ前政権から伝統的民主党への回帰ともいえる陣営なのだろう。

【プロフィル】榊原英資 さかきばら・えいすけ 東大経卒、1965年大蔵省(現財務省)入省。ミシガン大学に留学し経済学博士号取得。財政金融研究所所長、国際金融局長を経て97年に財務官就任。99年に退官、慶大教授に転じ、2006年早大教授、10年から現職。神奈川県出身。