小曽根真×真山仁対談

(上) コロナ禍だからこそ伝えたいことがある

SankeiBiz編集部

 ジャズピアニストの小曽根真さんと小説家の真山仁さんという意外な2人の対談が実現した。2人はともに神戸に縁があり、しかも、同世代。音楽、小説、そして人生を忌憚(きたん)なく語り合った。

 緊急事態宣言中続けた生ライブ配信で甦った若き日

 真山仁(以下:真山) 小曽根さんは、コロナ禍の中で、いち早くFacebookを通じて、自宅からライブ配信を始めました。しかも、毎晩。

 小曽根真(以下:小曽根) コロナ禍が深刻な状況のアメリカで、僕の友人であるチック・コリアやボブ・ジェイムズらが、インターネットライブを行い、ロックダウンで不自由を余儀なくされた人や医療従事者にエールを送りました。それを知って、いずれ日本でも同じ事態が起きるだろう。その時は、僕もやろうと思っていました。

 真山 小曽根さんは、やるならできるだけ良い音で届けたいと思われたとか。

 小曽根 自室にステレオマイクを立てて、そこから音を拾って配信しようと考えました。そして、1度目の緊急事態宣言が発令された2日後の2020年4月9日午後6時ごろから、テストとして20分ほど演奏して配信してみたんです。

 真山 予告もされなかったのに、約700人の方が視聴したとは、凄い!

 小曽根 僕も驚きました。そして、視聴された方から、「音が凄く良かった」というメッセージもいただき、つい「じゃあ、明日もやりましょう」と言ったところ、盛り上がってしまって……。

 真山 結局、ライブ配信は、宣言が解除された5月24日を越えて、5月末まで続きました。音楽家として、音楽でエールを送ろうとするだけでも尊いんですが、毎日同じ時刻に続けられたことに感動しました。過去に、経験はあったんですか。

 小曽根 初めてです。ライブ配信を続けるうちに、デビュー前、大阪のホテルのラウンジで、週6日、毎晩4セットピアノ演奏するアルバイトをしていた頃を思い出しました。さらに同じ頃、大阪市内のスナックで、客のリクエストに応えて伴奏したこともあったなと。いずれも、とても楽しい経験でした。それは多くの方が、目の前で僕の演奏を喜んでくれたからです。あの時、ピアノを弾く意味と楽しさを教わったんだと、Facebookでの 53日間のライブで噛みしめていました。

 真山 思いを伝えたいと心を込めて集中していると、不思議と昔の記憶が甦ってくる感覚は、私も経験あります。それが、毎日続いた理由ですか。

 小曽根 それ以上に大きかったのが、演奏後に、Facebookに寄せられるメッセージですね。「これで今日ゆっくり寝られる」「明日も生きてみようと思う」といった本当に切実なメッセージが届いて、多くの人が、大変な状況に置かれているんだということを痛感しました。だったら、僕もライブを頑張って続けようと。

 こんな時だから、敢えて厳しい苦言を発信する

 小曽根 連続ライブを通じて、芸術は、受け手側によって支えられていることを痛感しました。コロナ禍で苦しんでいる人を応援するつもりが、自分も救われた思いです。真山さんは、コロナ禍で始められたことや、こだわったことはありますか?

 真山 私は近年、言葉の重みが失われている一方で、同じ日本語なのに、言葉が通じ合わなくなっていると危惧していました。その一つの理由は、SNSの影響だと思いますが、誰もが面と向かって発言せず、曖昧な言葉を自分流の解釈で勝手に理解していく。このままでは、日本中がバラバラになっていくかもしれない。それを止めるのは、われわれ小説家を含め、言葉を生業にしている者の責任だと思っていました。

 小曽根 僕も一時期SNSで、社会に対して思うことを積極的に発言していたのですが、もしかするとやや無責任な発言をしたのではと思ってから、自分自身がしっかりと理解していること以外については、安易に批判するのをやめました。必ずしも発言者の意図が、受け手に伝わるわけではないですからね。

 真山 音楽は、聴く人が10人いたら、10通りの感じ取り方があるのが素晴らしいですが、言葉となると、そうとも言えない。やはり、コミュニケーションの道具ですからね。尤(もっと)も、私は、コロナ禍の中であえて「人が言いにくい苦言」を発信するように努めました。但し、単に「けなす」のではなく、「じゃあ、どうするのか」という提案も忘れないようにして。

 小曽根 具体的には、どんな発言ですか?

 真山 昨年は一年を通して、日本中が自粛モードを強いられました。日本人は、生真面目ですから、ほとんどの人がしっかり自粛して感染予防に努めました。その一方で、自粛しない人が、非難された。でも、「自粛」するかどうかは個々人が判断すればよい。政府に強制力はなく、自粛しなくても犯罪ではない。だから、モラルを大切にと訴えるのは良いと思いますが、それが度を超え始めた。

 小曽根 いわゆる「自粛警察」という問題ですね。

 真山 自粛を緩めて営業をしている店だけでなく、ルールを守って営業している店にまで、「こんな時期に金儲けか。とっとと店を閉めろ」と脅迫めいた電話をしたり、店に張り紙をするような行為が広がった。自粛は、強要してはいけないし、脅迫めいた行動に至っては、そちらの方が犯罪になりかねない。でも、その行為が「善意」から来ている場合もある。あるいは、自分が我慢しているのに、それを適当にしている人がいると「許せない」と思ってしまう。

 こういう閉塞感について、メディアも、最初のうちは知っていても黙殺していました。そこで、非力ながら自分が寄稿しているメディアなどで、「自分自身の正しさを押しつけて、多くの人を息苦しくして当然という行為は新型コロナ・ウイルスより危険かもしれない」と訴えました。同時に「無理をするのはやめよう。いつ終わるか分からない事態だから、もっと自分を甘やかして、生活の中に楽しみを探してほしい」とも。

 小曽根 それは凄いなあ。僕は、女優の妻が作家で演出家でもあった井上ひさしさんに師事していたこともあって、井上さんが、演劇を通じて平和や批判精神の大切さを訴えられていたのに、大変敬意を抱いていました。真山さんがされていることも、同じですね。やはり、批判する力のある人は、勇気を持って声を発するべきですね。

 真山 私は、井上さんには遠く及びません。でも、時に人が嫌がることを発信するのも仕事の一部だと思っています。一方で、コロナ禍の中で、余裕を失って暮らしていた人たちを、小曽根さんの音楽が癒やしたことに、芸術の素晴らしさを、改めて感じました。結局は、それぞれがやれることをして、互いを励ます。それが、この大変な時代を乗り越える秘訣なんだと思います。

※対談にあたっては、体温測定や消毒などウイルス感染拡大防止対策を講じています

 ■小曽根真(おぞね・まこと) ジャズピアニスト。1983年、バークリー音大ジャズ作・編曲科を首席で卒業。米CBSと日本人初のレコード専属契約を結び、アルバム「OZONE」で全世界デビューした。ソロ・ライブをはじめゲイリー・バートン、ブランフォード・マルサリス、パキート・デリベラなど世界的なトッププレイヤーとの共演や、自身のビッグ・バンド「No Name Horses」を率いてのツアーなど、ジャズの最前線で活躍している。2003年にグラミー賞ノミネート。2011、国立音楽大学(演奏学科ジャズ専修)教授に就任。2015年には「Jazz Festival at Conservatory 2015」を立ち上げるなど、次世代のジャズ演奏家の指導、育成にもあたる。2020年春には、コロナ禍の緊急事態宣言中、53日間に及ぶ自宅からの配信活動「Welcome to Our Living Room」も話題となった。2021年3月に還暦を迎え、全国各地で「OZONE 60 CLASSIC x JAZZ」ツアーを開催する。主な日程は下記の通り。

3月25日(木) 東京:サントリーホール 大ホール

3月27日(土) 名古屋:愛知県芸術劇場コンサートホール

3月28日(日) 秋田:アトリオン音楽ホール

4月 3日(土) 大阪:ザ・シンフォニーホール

5月22日(土) 福岡シンフォニーホール  ほか

http://www.hirasaoffice06.com/artists/view/187?artist=Instrumentalists

 ■真山仁(まやま・じん) 小説家。昭和37年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科を卒業後、新聞記者とフリーライターを経て、企業買収の世界を描いた『ハゲタカ』で小説家デビュー。同シリーズのほか、日本を国家破綻から救うために壮大なミッションに取り組む政治家や官僚たちを描いた『オペレーションZ』、東日本大震災後に混乱する日本の政治を描いた『コラプティオ』や、最先端の再生医療につきまとう倫理問題を取り上げた『神域』など骨太の社会派小説を数多く発表している。初の本格的ノンフィクション『ロッキード』を上梓。最新作は「震災三部作」の完結編となる『それでも、陽は昇る』。

SankeiBiz編集部 SankeiBiz編集部員
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