北朝鮮が外国人の観光入国を全面停止してから1年が経過した。北朝鮮が一般の日本人観光客の受け入れを始めた1987年以降、1年以上、観光入国が停止されたのは初となる。
2020年1月22日、午前中に全面受け入れ停止の通知があり、即日実施された。ある意味、北朝鮮だからできる荒業と言える。
当日、中国・丹東駅発の中国人ツアーを手配していた丹東の旅行会社によると、「出発の1時間前に中止連絡があり、大変でした」と語る。
丹東駅から平壌へ向かう国際列車は、毎日午前10時に出発する。一応、国際列車なので、空港のように中国を出国する手続きを行う。1時間前には保安検査場を通過してイミグレーションに並んでいることが多い。
北朝鮮ツアー中止の連絡を受けた添乗員は、参加者を集めて、そのまま近郊ツアーへと切り替えたという。参加者から特に不満の声が挙がらないのが中国らしいが、旅行会社担当者も「(北)朝鮮観光ではよくあること」と慣れた感じだ。
感染症が原因とは言え、北朝鮮から一方的なツアーキャンセルにもかかわらず、補償等はない。旅費は後払いだったため未払いで、一部返金したりと旅行会社の損害は最小限で済んだようだ。
中国人向け北朝鮮ツアーの場合、信用が乏しいのか、北朝鮮側への旅費の支払いは後払いが多い。
メリットはどこにある?
中国の旅行会社は、キャンセルされても無補償など、やや一方的な状況にも関わらず、北朝鮮ツアーを継続するメリットはどこにあるのだろうか。
旅行会社によると、ツアーから稼げる利益は、日本やタイなどの他国のツアーと比べると格段に少ないという。その理由は、参加者が現地で使う高額オプションなどのキックバックが一切ないからだ。
日本でも、かつて団体旅行ではつきものだった土産物店巡りでの利益の一部が旅行会社へキックバックされるような仕組みが北朝鮮ツアーにはないのだ。
もっとも、北朝鮮の免税店に今の中国人が魅力を感じる高額商品があるとは思えないが、たとえ10万円のVIP席でマスゲーム観覧しても旅行会社には1元も還元されない。この仕組は、日本人向けの代理店でも同じだ。その理由は、北朝鮮は官製ツアーで、旅行会社は、あくまで手配するだけの代理店という位置づけになるからだ。
「比較の法則」使い中国をよりよく見せるためか
北朝鮮ツアーは稼げないなら、なぜ継続するのか、ますます不思議になる。そうすると、中国政府から旅行費用の一部還元や補填など何かしらの恩恵が与えられているのかと思ったが、それもないという。
中国政府は、この10年ほど中国人の北朝鮮観光を推しているのは事実だ。中国政府としては、より貧しく不便な北朝鮮へ行くことで、中国との比較の法則が働き、中国がよりよく見える効果を狙い推奨していると考えられる。
この中国政府が北朝鮮ツアーを実施する旅行会社に対して、旅行費用の一部還元や税制面の優遇など行い「北朝鮮ツアーを促進させている」との噂を耳にするが、さすがに、この話については旅行会社の口は重く、裏取りができない。
もっとも金額が数字として残ってしまうと、今の中国はSNSですぐに拡散して、諸外国から批判の的になりそうなので、中国政府はもっと発覚しにくい方法で実施しているだろう。
旅行会社は「手心」期待か
ある旅行会社は、「バーター」で恩恵を受けていると認めた。
実は、中国では、海外旅行が全面自由化されたわけではない。パスポートが発行されない中国人も少なくないと言われる。各旅行会社は、許可人数を中国政府からもらい、その人数の上限に達するまで販売できるという制度になっている。
たとえば、旅行会社Aは、人気の日本1000人、タイ800人の年間許可が与えられているとする。この許可人数は、旅行会社ごとに異なる。もし、手配したツアー客が日本で脱走したり罪を犯したりすると、ペナルティで旅行会社Aへの許可人数が減らされる。
各旅行会社は、稼げる人気国の許可人数を1人でも多く獲得したい。そこで北朝鮮だ。どうやら北朝鮮ツアーを手配すると、この許可人数へ手心が加えられるようなのだ。
中国政府へ忖度して北朝鮮ツアーへ積極的に取り組めば、バーターとして、日本やヨーロッパなどの人気国の許可人数を増やしてもらえるようになっているそうだ。
これなら金額など証拠は残らない。「中国政府が北朝鮮旅行を促進しているのではない。あくまで、中国人が自由意志で北朝鮮への旅行を選んでいる」という中国政府の大義名分が成り立つようになっている。
長期的な視野を持つ関係者も
北朝鮮ツアーを続ける理由として、他にももっと長期的な視野を持つ中国人関係者もいる。
将来、中国の改革開放のように市場が開放されれば、ホテルやショップなどを先んじてつくり、先行者利益を得たいと考える人たちだ。
現在、中国で需要が高まり、近い将来確実に大きなニーズとなる介護施設を北朝鮮につくり、養生や治療も兼ねた高齢者向けのロングステイツアーなど、日本では想像もつかない構想を抱く中国人経営者もいる。
将来、タイミングよく北朝鮮へ進出するためには、北朝鮮と良好な関係を維持することが重要となる。「それも念頭に北朝鮮ツアーを続けている」とある旅行会社は明かす。(筑前サンミゲル/5時から作家塾(R))