国内

政投銀の金融支援策に変化 飲食業などの財務基盤強化に

 新型コロナウイルスの感染拡大の長期化を背景に、政府系金融機関である日本政策投資銀行(政投銀)の支援策が変化している。飲食や宿泊業を中心に借り入れ余地が乏しくなる企業が増える中、単なる資金繰り支援から、財務基盤の強化の支援に重点を移しているのだ。こうした中、24日には、居酒屋チェーンを手掛けるワタミへの出資が決定。ただ、民間金融機関と協調して支援にあたる原則を一時棚上げするなど、民業圧迫や金融規律が緩む懸念もある。

 「相談件数は多い」

 20日の決算会見で、政投銀の渡辺一社長は、3月末に導入を決めた金融支援の強化策についてこう強調。新しい支援策に約160件の相談があり、投融資にすべて応じれば3000億円規模に達すると明らかにした。

 新しい支援策は新型コロナ感染症の長期化や緊急事態宣言の発令などで、業績悪化が著しい飲食や宿泊業を対象にしている。菅義偉政権の要請もあり、導入が決まった施策だ。

 ◆債務超過の企業も

 政府や日本銀行はこれまで企業の資金繰りを積極的に支援し、倒産件数をある程度押さえ込むことに成功してきた。しかし、コロナ禍の長期化で飲食や宿泊業を中心に借り入れが増え、企業の財務基盤は悪化の一途。極端な例では、負債が資産を上回る債務超過となり、「これ以上、貸し出すことができない状態」(大手銀行幹部)に陥っている。

 こうした事態を改善するため導入されたのが、政投銀の新たな支援策だ。飲食や宿泊業の財務基盤の強化を目的にしており、大きく2つの柱から成り立つ。

 1つ目は一部が借金ではなく資本と見なされる「劣後ローン」の供与について、金利を当初の3年間、年1%という低利に抑える施策だ。劣後ローンは返済の優先度が低く、その分、リスクが大きいため、一般的には金利が4~7%程度と高めになるが、今回は破格の水準に引き下げた。

 2つ目は金融支援のために設立した500億円規模のファンドだ。支援先が発行し、政投銀が引き受ける「優先株」について、出資金に対する配当率を年4%と大幅に引き下げ、企業側の負担を軽くしたのが特徴。優先株は普通株と違って議決権がない代わりに配当が優先される。それでも今回、企業が支払う配当は年4%と通常の半分程度に抑えられている。

 これら2つの施策で財務基盤が強化されれば、企業側はその分、さらなる借り入れの余地が生じるというメリットもある。

 500億円規模のファンドについては、さらに相談数などが増えれば「増額することも検討する」(渡辺社長)という。

 ◆ワタミも駆け込み

 実際、新しい支援策に駆け込む企業が相次ぐ。居酒屋などを展開する外食大手のワタミは優先株で、120億円の投資契約を締結。旅行大手のJTBも、優先株を政投銀に引き受けてもらう案を軸に、資本支援を要請する方向で検討していることが分かっている。

 財務省関係者によれば、宿泊が付いたパック旅行などの商品を手掛けるJTBなどの旅行会社も、広い意味での「宿泊業」として新しい支援策の対象として認められそうだ。

 ただ、劣後ローンの金利を引き下げたり、優先株の配当率を引き下げたりできるのは、政府からの利子補給や、損失が発生した場合に同じく政府系の日本政策金融公庫が一部を肩代わりする「損害担保契約」を活用できるからだ。仮に倒産などで投融資が焦げ付けば、事実上の国民負担にもなりかねない。

 また、今回の新しい支援策はコロナ禍が続く間の時限措置とはいえ、危機対応業務における「民間協調融資原則」を一時的に停止し、「迅速に対応するため」(渡辺社長)、政投銀による単独支援もできるようにした。

 これに対して、全国銀行協会の三毛兼承会長(三菱UFJフィナンシャル・グループ会長)は4月の定例会見で、政府系金融機関の役割が増すことに一定の理解を示した。しかし、政投銀の支援が長引くほど、“民業圧迫”との非難も大きくなる可能性は拭えない。

 そもそも、コロナ禍とは関係なく業績が悪化している企業を支援し続ければ、いわゆる“ゾンビ企業”を延命させることにつながる懸念もある。

 政投銀の渡辺社長は「再建の可能性を判断して(投融資を)断ることもある」と説明する。コロナ禍という異例の事態とはいえ、金融の規律がゆがみ、いたずらに企業支援に乗り出せば、不良債権の急増につながる危うさもはらんでいる。(大柳聡庸)

【用語解説】日本政策投資銀行

 旧日本開発銀行と旧北海道東北開発公庫が1999年10月に統合して発足した。政府が全額出資している。同じ政府系金融機関でも日本政策金融公庫や商工中金が個人事業主や中小企業向けを主に手掛けるのに対し、大企業向けの資金供給やファンドへの投資に注力。大規模災害や金融危機など政府が有事と認定した場合に、中長期資金を貸し付ける危機対応融資を実施する。

 政府系金融機関をめぐっては、民間にできることは民間に委ねるとの観点から、2008年の政策金融改革に基づき、業務の見直しが行われてきた。しかし新型コロナウイルス流行を受け、政投銀の危機対応融資の残高は20年度末、前年度末の3倍超にあたる2兆8057億円に跳ね上がっている。