真山仁の穿った眼

イーロン・マスクやジェフ・ベゾスのような“夢を実現する経営者”を生むために

真山仁

 アメリカ人の強さの秘密

 あなたに夢はありますか。それを実現するために、何をしましたか。

 あるいは、子供の頃の夢を実現しようと、努力したことはありますか。

 いやいや夢を実現しようなんて、ナンセンス。現実を見据え、今の社会でどうすれば、ほどほどに生きていけるかを考えるのが、大人じゃないか。

 そんな風に考えている人が多いのだろう。

 だから日本はダメなんだ、と顰蹙(ひんしゅく)を買うのを承知で申し上げたい。

 確かに、夢を実現するのは、難しい。

 でも、それに挑むことは誰にでもできる。大切なのは、必死で夢を追いかける過程で、己を知ることだ。そういう経験をすると、夢に破れても、充実した人生を送れる。なぜならきっとまた、自分の人生を楽しむために、何かに挑もうとするからだ。

 そして、可能性のある若い世代を後押ししようとするだろう。

 今の日本は、高齢者が既得権にしがみつき(今の政権が、良い例だ)、若者に挑戦する機会を与えない。若者も、無理をして挑戦などせず、賢く金儲けして、細やかな享楽を楽しめばいいと考えている人が、明らかに増えている。

 全ては、夢を追うという情熱を失ったのが原因ではないだろうか。

 バブルが弾け、停滞と下降しかない時代にそんな発言は時代錯誤だと、若い人に反論されることが多い。まだチャンスがあった40代、50代の現役世代が挑戦をせず、若者にお手本を見せられなかったくせに、と続く。

 そうかも知れない。

 だが、他人が出来なかったことを、自分が挑まない理由にすべきではない。

 たとえば、海の向こう、アメリカを見て欲しい。

 さまざまな浮き沈みを繰り返しながらも、世界一の国家を維持している。

 なぜだろうか。経済や軍事で他の追随を許さない大国であるから、というのは考えが浅い。

 それを言えば、東ローマ帝国やオスマントルコ帝国だって、巨大国家だった。だが、いずれも滅びたではないか。

 過去に何度か小説の取材で、アメリカ人の強さの秘密を探った。

 彼らの話を聞いていて、日本と明らかに異なると感じた点がある。それは、強欲なまでに夢を追いかける姿勢と、それを肯定する社会の有り様だ。もっといえば、アメリカンドリームを手に入れるために必死になれない人は、その業界や分野から退場させられ、新たな挑戦者が、夢を追う。その繰り返しの中で、突出した成功者が生まれるのだ。

 その好例が、テスラモータースやスペースXの創設者であるイーロン・マスクであり、Amazonという店舗を持たない巨大書店で世界に君臨したジェフ・ベゾスだろう。

 彼らは、ビジネスマンとして大成功したが、単に金持ちになりたくて頑張ったのではない。自分の夢を実現するために、会社を興したり金儲けをしたりしたのだ。

 マスクは、元々南アフリカ人で、ネットショッピング・ビジネスで成功し、そこで得た資金を元に、スペースXを創設した。ここからが、彼の夢を実現するための挑戦なのだ。その夢とは、「火星の地球化」だ。若い頃に彼は、地球はいずれ温暖化などで破滅する、だから火星に移住しなければならないと思ったそうだ。そしてそのために、自分で民間宇宙ロケット開発企業「スペースX」を設立したのだ。

 何のために金儲けをするのか

 以前、拙著『売国』の取材で、「スペースX」本社を覗かせてもらった。オフィスのあらゆる所に、2枚の惑星の写真が貼られている。1枚は、地球であり、もう1枚は、地球化に成功した火星の予想図だ。同社で働く研究開発者は皆、マスクから「それで、あとどれぐらいで火星に行ける?」と何度も尋ねられる。さらに「そのために、何が足りない?」と聞いて、その足りないものを、彼はあらゆる手段で入手してくるというのだ。

 一方ベゾスは、Amazonの最高経営責任者(CEO)を退任後、自らが創業した「ブルーオリジン」社の宇宙船「ニューシェパード」に搭乗し、高度約100キロの宇宙に到達した。それは5歳からの夢を実現した瞬間だった。

 金持ちになりたくて頑張る日本の若い経営者と異なり、彼らは、夢を実現するために金儲けをして大成功している。

 なぜ、こんな違いが生まれるのだろうか。

 ヒントは、今の若者に、「あなたの夢は?」と尋ねると見えてくる。

 大抵の人は、「ありません」か「分かりません」と答える。それではいけないと思うけど、ないものはないのだと言われたこともある。あるいは、堂々と「金持ちになりたい」という若者もいる。でも、金持ちになって、何かやりたいことがあるわけではない。

 日本はアニメ大国だし、創作のレベルは高いと言われている。だが、いつか自分も子供の頃に見たアニメのような世界を創りたい、と夢を持つ人があまりにも少ないのは、なぜなんだろうか。

 研究者の中には、夢を持っている人はいる。だが、彼らはそれを実現するための具体的な道筋や資金調達では、他力本願なケースが多い。

 自ら夢を実現するためには、必要なことは何かを見極め、誰にも頼らず自分の力でそれを手にする方法を考え、挑戦し続ける胆力が大切なのだ。

 日本の経営者に、小粒でつまらない人が増えた。

 夢を語らせても、抽象的なことしか言わない。

 戦後日本を復興させた財界人には、夢を形にしたいという思いで、頑張った人が多かった。あるいは、取り組み、成功させた事業こそが、夢の実現だったという人もいた。

 そんな夢を見る力や、その素晴らしさを語る大人が減ったことが、若者に影響しているのは、間違いない。

 やせ我慢ではなく、金持ちになるだけなんて、つまらない。カネは、何かを実現するために使うものだ。

 私は、カネには無縁だが、一方で、小学生の頃に「小説で社会に警鐘を鳴らし、日本をもっといい国にしたい」と思い、高校生の頃から本気で小説家を目指した。

 そして、ずっとその夢を周囲に放言していた。

 30代になったら、もうそれは、妄執に近かった。だが、挑戦を進めてから25年目に、曲がりなりにも小説家になった。

 それは、夢を実現したのではない。ようやく、夢を実現するための第一歩を記したのだ。

 夢は、何者かになることではない。何かをやることなのだ。

昭和37年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科を卒業後、新聞記者とフリーライターを経て、企業買収の世界を描いた『ハゲタカ』で小説家デビュー。同シリーズのほか、日本を国家破綻から救うために壮大なミッションに取り組む政治家や官僚たちを描いた『オペレーションZ』、東日本大震災後に混乱する日本の政治を描いた『コラプティオ』や、最先端の再生医療につきまとう倫理問題を取り上げた『神域』、「震災三部作」の完結編となる『それでも、陽は昇る』など骨太の社会派小説を数多く発表している。初の本格的ノンフィクション『ロッキード』を上梓。最新作は、東南アジアの軍事政権下の国で「民主主義は、人を幸せにできるか」を問う長編小説『プリンス』。

【真山仁の穿った眼】はこれまで小説を通じて社会への提言を続けてきた真山仁さんが軽快な筆致でつづるコラムです。毎回さまざまな問題に斬り込み、今を生き抜くヒントを紹介します。アーカイブはこちらから。真山仁さんのオウンドメディア「真山メディア-EAGLE's ANGLE, BEE's ANGLE-」も随時更新中です。