脱炭素への投融資「環境ファイナンス」 日本に求められる巻き返し
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金融機関が温室効果ガス排出量削減などの事業に投融資する環境ファイナンスの動きを加速させている。2050年の脱炭素に向けた世界的な潮流に乗って日本経済を活性化させることは、金融機関にとって融資先の競争力強化という実利につながる戦略といえる。ただ、日本は欧米と比べて投融資で出遅れ感があり、再生可能エネルギー普及に関する地理的な制約もある。今後は金融面での取り組みの精度を高めるなどして、巻き返しを図る必要がありそうだ。
社会的な意義を強調
「これは企業が業界をこえて結集し、再生エネの普及を目指すものだ」
三菱UFJ銀行の半沢淳一頭取は1日に都内で開いたファンド立ち上げの記者会見で、社会的な意義を強調した。
発表されたのは再生エネに投資する新たなファンドの創設に向けた新会社「Zエナジー」の設立だ。三菱UFJ銀、NTT子会社のNTTアノードエナジー、大阪ガスの3社が中核となり、再生エネで発電した電力をZエナジー株主や取引先などで使用するまでをカバーする「一気通貫」の枠組みを作る。
年内にも300億円のファンドを設立して太陽光発電を中心に投資。500億円、1000億円と段階的に規模を拡大させながら風力発電なども対象にする。将来的には個人投資家の出資も募るなどして3000億円まで規模を拡大し、水素を燃料とする「水素発電」なども構想に入れる。
経済成長のチャンス
ファンド設立の背景にあるのは脱炭素に向けた世界的な潮流を生かして、日本経済を強くしていこうという意識だ。
日本では菅義偉(すが・よしひで)首相が昨年10月、50年の脱炭素を掲げ、産業界も温室効果ガス排出量削減に向けた取り組みを加速させている。以前から気候変動問題に関する国際的な協議を引っ張ってきた欧州に加え、米国も今年1月のバイデン政権誕生で50年の脱炭素へかじを切った。環境関連の事業は雇用を生み出すなどの効果が期待され、経済成長のチャンスを生む。
一方、欧州連合(EU)では環境規制の緩い国からの輸入品に課税する「国境炭素税」の検討が本格化しており、米アップルはサプライチェーン(供給網)で脱炭素を進めることを宣言している。今年10月末から始まる国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)では温室効果ガスの排出量削減に向けて活発な議論が想定される。
大和総研の田中大介・金融調査部研究員は「取り組みが遅れた企業はサプライチェーンから外されるなどして競争力を低下させる。こうした場合は、融資などを行う金融機関にもダメージを与えかねない」と指摘する。
再生エネ電力奪い合いも
環境ファイナンスに力を入れる金融機関は三菱UFJ銀だけではない。みずほフィナンシャルグループは19~20年度の実績で再生エネ向けに約7000億円の事業融資を実行。国内の再生エネ発電事業で約1ギガワットの設備容量を保有するオリックスのもとには地銀経由で企業の再生エネのニーズが寄せられ、発電設備を設置するケースが相次ぐ。
金融機関は投融資先の温室効果ガス排出量削減を後押しする取り組みにも積極的だ。三井住友フィナンシャルグループは関連会社が製造業の工場などの屋根に年間電気使用量の一部をまかなう太陽光発電設備を設置し、保守やメンテナンスも担う事業を行う。
ただ、国際的な比較では日本の金融面での取り組みには出遅れ感がある。世界持続可能投資連合(GSIA)が今年7月に発表した報告によると、環境対策や社会課題への貢献を重視するESG投資の国・地域別の残高は、米国が17兆810億ドル(約1870兆円)、欧州が12兆170億ドル。これに対して日本は2兆8740億ドルだ。
さらに日本では再生エネをめぐる制約の強さも否めない。日本は平地が少ないことなどから発電設備設置の適地が限られる上、発電設備設置に伴う周辺環境への影響を懸念して地元が反対するケースもある。ある業界関係者は再生エネでつくられた電力への需要が高くなっていけば、「企業の間で再生エネ電力を奪い合うような展開になっていく可能性もある」とみる。
大和総研の田中氏は環境問題対応を前進させるためには、「気候変動問題への取り組みをビジネス化することが重要だ」と指摘。企業や自治体が環境分野での取り組みのために発行する債券「グリーンボンド」などの発行基準を明確にして、適切な事業に資金が流れていくようにすることが必要だとしている。
課題克服へ産業構造転換も
2050年の脱炭素に向けて、政府は30年度の温室効果ガス排出量削減目標を従来の13年度比26%減から46%減に引き上げている。目標実現のため、次期エネルギー基本計画の政府案では30年度の電源に占める再生可能エネルギーの割合を従来目標の22~24%から、36~38%まで大幅に拡大させるとする。
ただ、再生エネには天候によって発電量が左右されたり、周辺の自然環境への影響や費用が大きくなったりといった課題も多い。大量に導入するには技術革新などが不可欠で、産業構造の転換まで見据えた官民が一体となった取り組みが求められる。(高久清史)