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核ごみに揺れる北海道寿都町 町長選立候補予定者に聞く

 原発の使用済み燃料から出る高レベル放射性廃棄物(いわゆる「核のごみ」)について、最終処分場誘致につながる「文献調査」が進む北海道寿都(すっつ)町で今月、任期満了に伴う町長選挙が行われる(21日告示、26日投開票)。立候補を表明しているのは、文献調査に応募した現職の片岡春雄氏(72)と、文献調査に反対する前町議で新人の越前谷由樹氏(69)。両氏に政策などを聞いた。

 片岡氏「正しく理解し結論を」

 --6期目の出馬になる

 「後進に道を譲ることを考え始めていた矢先に新型コロナウイルスが国内で確認された。町長として5期20年、大変な思いで町財政を立て直してきた。財政面ではすぐ困るような状況にはないが、コロナによる地域経済への打撃は深刻。今後4年間でしっかり経済対策を進め、次の世代につなぎたい」

 --最大の争点は「文献調査」の是非だ

 「まずは(候補地として)安全なのか、安全ではないのかを調べることが重要。その結果によっては国から不適格と言われるかもしれない。選ばれるための調査でもあり、選ばれないための調査でもあると考えている。国からの交付金(10億円)以外に、調査でこの地域の地盤を確認できるという利点もある。寿都町発でモデル勉強会を開き、処分場に対する議論に一石を投じたい。きちんと理解をしていただいた上で結論を出すが、(調査後の住民投票で)『反対』という結果が出たならやらない」

 --まちづくりの政策は

 「私が在任中の20年で人口が約1200人減少した。10年後、2千人台を下回るのは確実で高齢化もさらに進む。シニア層の生きがいづくりや、新たな雇用創出など地元経済界と連携した対策が必要だ。当町は地方交付税だけではやっていけず、住民サービスなどを継続するには稼ぐしかない。漁業振興や豊富な神社仏閣を使った歴史・文化体験観光の仕組みも考えたい。人間同士の交流と信頼関係を土台に、安定した財政基盤をつくっていく」

 越前谷氏「文献調査は直ちに撤回」

 --立候補の理由を

 「昨年『核のごみ』問題が浮上して以降、町議会議員として議会で繰り返し問題提起してきた。今年4月に反対活動を行う地元2団体から強い出馬要請を受けたことや、私自身も大切な故郷に核のごみを持ち込むのは許せないという思いがあり、立候補を決めた」

 --文献調査の即時撤回を訴えている

 「高レベル放射性廃棄物の地層処分技術はまだ確立されておらず、文献調査であっても行うべきではない。福島県では東日本大震災の大津波で被災した東京電力福島第1原発の事故で今も人が住めないエリアがある。危険なものを故郷に持ってきてはいけない。町長に選ばれたら直ちに撤回する。現職の町長は人口減少の中で町を持続させるため、文献調査が必要な政策の一つと説明している。現在の町の一般会計予算は約57億円だが、私が思う適正規模は約45億円。つまり文献調査の交付金約10億円は不要になる」

 --どんな政策を進めるか

 「身の丈に合った財政規模にする必要がある。一つ一つの事業や政策を見直す体制を強化したい。歳入の柱であるふるさと納税とともに、町営の風力発電事業は継続。風車は増設も検討する。これらの収益が増えた場合、基金に積み立てて万が一の事態に備える。大切なのはコスト意識。町民と丁寧に話し合いたい。任期の4年で目標の財政規模にするのは困難なので、令和2年度から進めている10カ年計画の『第8次総合振興計画』を見直すとともに、自治基本条例などまちづくりの基本ルールも定めていく」

【寿都町】 北海道南西部の小樽市と函館市のほぼ中間にある人口2822人(令和3年9月末時点)の漁業のまち。昨年10月に片岡町長が、原発の使用済み燃料から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場候補地選定に向けた「文献調査」の応募を正式に表明した。その後、寿都町に近い神(かも)恵(え)内(ない)村(803人)も応募を表明し、昨年12月から原子力発電環境整備機構(NUMO)による調査がそれぞれ行われている。調査は第1段階が「文献調査」(2年)、第2段階「概要調査」(4年)、第3段階「精密調査」(14年)-の3段階あり、全体で約20年を要するとされる。同調査については高知県東洋町が平成19年1月に応募したが、地元住民などの反対で取り下げた。