「クリミアの選択はロシアとの統合」「クリミア住民はロシアとともに」-。ロシアが3月に併合したウクライナ南部クリミア半島の中心都市シンフェロポリ。最近訪れた同市内の随所にはこんな大看板が見られ、現地で多数派のロシア系住民が、ロシア併合を歓迎した“熱狂”の余韻が残っていた。議会や政府庁舎にはロシア国旗が掲げられ、ロシアのルーブル通貨が流通している。
だが、「ロシア系住民の保護」という偽りの口実で、ロシアが兄弟国ウクライナからクリミアを奪い取った代償は大きい。
まず、クリミア経済の主軸である観光業。クリミアで従来、約8割を占めていたウクライナ本土からの客が今夏は失われた。本土とクリミア半島の間に「国境」ができ、ウクライナ人がクリミアに行くのは心理的にも物理的にも困難になった。シンフェロポリ空港からはウクライナと諸外国の航空会社が撤退し、欧州からの客も期待できない。
頼みの綱はロシア「国内」からの客だ。しかし、露政府の補助にもかかわらず、ロシアからクリミアへの航空券はそれなりに値が張り、空路ではさばける客数にも限界がある。
ロシア人観光客の主要ルートは露南部まで陸路で行き、そこからケルチ海峡経由でクリミアに渡るというものだ。しかし、海峡で稼働するフェリーは4隻にすぎず、今夏は旅客が15~24時間も行列で待たされている。
プーチン露政権は海峡に橋を架けるとしているが、総工費3765億ルーブル(約1兆1300億円)ともされるこの計画が実現するのはいつになることか。
ロシアの観光当局は国営企業の社員にクリミア旅行を促しているが、そんな「動員」の効果は知れている。例年600万~700万人がクリミアを訪れてきたが、地元業者は「今年は100万人来ればよい方だ」とため息をついている。
クリミアは半島北部の運河を通じ、淡水の8割超をウクライナ本土に依存していた。だが、ロシア編入後はウクライナ側と水の供給条件で折り合えず、運河は干上がった。米やトウモロコシをはじめとする農作物は壊滅的打撃を受け、各地の計画断水も住民や観光客に不便を強いている。