サウジ、対イラン強硬外交は裏目? カタール断交から半年、効果疑問視


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 【カイロ=佐藤貴生】サウジアラビアがカタールと断交して5日で半年になる。サウジはこれ以降、強硬な外交姿勢をいっそう鮮明にしている。次期国王との呼び声が高いムハンマド・ビン・サルマン皇太子(32)の意向との見方が根強い。念頭にあるのは域内の覇権を争うイスラム教シーア派大国イランの勢力拡大だ。最近はレバノンでもイランとの確執が表面化したが、他国への強引な干渉外交は逆効果だと疑問視する見方もある。

 強権外交の成否

 サウジは6月、「イランと融和的な関係」にあるとしてカタールと断交した。イラン敵視の姿勢が表れたもう一つの事例が、レバノンのハリリ首相への異例の対応だ。ハリリ氏は11月上旬、サウジ訪問中に突然辞意を表明し、その後2週間以上も同国にとどまった。

 ハリリ氏はサウジとの二重国籍で、もともとサウジ政府とは親密な関係にあった。だがサウジは、ハリリ氏が、イランの影響下にあるレバノンのシーア派組織ヒズボラの勢力拡大を食い止めなかったことに不満を抱き、辞任を迫ったとの見方が多い。

 ロイター通信などによると、ハリリ氏がサウジに到着したとき、普段は出迎える王族らに代わり、警官隊が取り囲んだ。携帯電話を取り上げられ、翌日には辞意表明に至ったという。

 サウジによる断交後、カタールにはイランが食料などを送って支援し、先月下旬にレバノンに戻ったハリリ氏は辞意を保留する意向を示した。2015年から続くイエメンへの軍事介入も、イランが後ろ盾になっているシーア派系武装組織「フーシ派」の勢力拡大を阻止する狙いとされるが、戦費が膨らみ財政を圧迫しているとの見方が強い。

 いずれのケースも思い通りの結果が出ているとはいいがたいのが実情で、水面下で着々と各国に浸透するイランの方が一枚上手との見方もある。

 「近く国王交代」?

 サウジがレバノンで強硬な対応に出たのと同じ11月上旬、サウジ国内でも大きな動きがあった。ムハンマド皇太子率いる「反汚職委員会」が200人以上の王子や富豪らを横領などの容疑で一斉に逮捕、首都リヤドにある五つ星のリッツ・カールトンホテルは臨時の拘置所と化した。

 逮捕された王子には、前国王や元皇太子の息子などの有力者が含まれていた。国家警備相だったムトイブ王子は、10億ドル(約1100億円)もの“保釈金”を支払うことで約3週間ぶりに解放された。

 米紙ニューヨーク・タイムズは、原油価格低迷で国家近代化計画の資金が不足し、皇太子が富豪らに投資を求めたが、金が集まらなかったことが背景にあると示唆している。

 サウジ当局は汚職の損害額は1千億ドルに上ると主張。逮捕者を釈放する見返りに莫大な額を国庫に返納させる方針とされる。推計資産180億ドルの王族投資家、ワリード王子の去就も不明だ。

 一斉逮捕で多くの有力者が排除されたことで、英米メディアでは11月、近くサルマン国王が生前退位し、実子のムハンマド皇太子が王位を継承するとの見通しも報じられた。その場合、さらに強大な権限を握った“新国王”の下でいっそう強硬な対イラン政策が敷かれる可能性もある。