水素で航行 脱炭素化第一歩 ベルギー海運大手、旅客用シャトル船建造

 ベルギーの海運最大手CMBは水素燃料で航行する旅客用の海上シャトル船第1号を建造した。ゆくゆくはこの新技術を貨物船に活用し、船舶の「脱炭素化」を進める予定だ。

 CMBによると、この「ハイドロビル」シャトル船はロイド船級協会から海上航行船の認定を受けた。圧縮水素でも通常の燃料油でも航行可能で、初期の試験航行を経て、貨物船用エンジンへと技術を拡大する。

 ◆無公害で低価格目標

 CMBのアレクサンダー・サベリズ最高経営責任者(CEO)は「世界的にみて、水素(エネルギー)はものすごい可能性を秘めている。再生可能エネルギーブームは安い方法で水素エネルギーを作り出す絶好のチャンスをもたらしている」と語った。

 1兆ドル規模の海運業による環境汚染に対する規制はまだ緩い。国際海運業界が排出する温室効果ガスは世界の3%相当と見積もられているが、同業界は2015年に採択されたパリ協定の削減対象にはなっていない。船舶はほぼ常時、重油を燃やしており、重油は環境汚染物質である硫黄含有量が最も高く、廉価なエネルギー形態の一つだ。

 ただ海運業の環境汚染に対する監視体制は変わろうとしている。国連の組織である国際海事機関は船舶からの硫黄排出量を制限する厳格な新ルールを20年から課すことになっている。また、炭素税の課税案も出ている。

 元造船技師でUCLエネルギー研究所の講師を務めるトリスタン・スミス氏は「中国、日本、欧州諸国グループなど有力な国々が船舶の脱炭素化に向け、非常に精力的に打ち込んでいる。水素はこうした取り組みを推進する上で最もコスト効率の高いエネルギーの一つだ。実績があり、需給バランスの調整などエネルギーシステムとして機能するほか、船舶内での燃焼が簡単だ」と語った。

 電気自動車や電気トラックなど、他の輸送形態はバッテリー(電池)に傾いているものの、貨物船はあまりにも大量のエネルギーを消費するため、バッテリーは選択肢にならない。

 CMBの調査開発部門マネジャー、ロイ・カンペ氏は「世界最大級のバッテリーでも、丸一日航行できないだろう。航海期間は通常2、3週間だ」と語った。

 カンペ氏によると、水素エネルギーを燃焼する船舶に転換するのは比較的簡単な改造で済むという。同社は技術開発に「数百万ドル」を費やしてきた。小型貨物船の費用をおよそ2000万ドルと見積もる。

 CMBは、無公害で通常の船舶より安く航行できる船舶づくりを長期目標に掲げている。サベリズCEOは再生可能エネルギーの増加に伴う水素の価格低下を期待しており、そうなれば約10年で船舶向けの水素燃料の価格を半減できると考えている。

 CMBは現在、化学工場から水素を調達しているが、将来的には再生可能エネルギーの電力で水を電気分解して発生する水素ガスを確保したい考えだ。ドイツで再生可能エネルギーと系統電力を組み合わせて水素ガスを生成するには、現在、100万BTU(英国熱量単位)当たりおよそ19ユーロかかるとブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス(BNEF)は見積もっている。

 BNEFの新技術分析部門を率いるクレア・カリー氏は「水の電気分解から再生可能な水素エネルギーを生成する価格は、規模の経済で、電気分解を行う電解装置の価格が低下するのに伴い、下がる可能性が高い。太陽光や風力など再生可能エネルギーの費用も下がりつつあり、電解装置にフィードバックされる費用が下がれば水素ガスの生成コストの低下につながる」と語った。

 ◆貨物船の燃料に利用

 CMBは次の段階として、アントワープ-ロシア間で2万5000トンのコンテナを運ぶ、貨物船の補助エンジンに水素燃料を利用する予定だ。補助エンジンはコンテナを動かすクレーンや船上の乗組員の居住区、その他の電子装置に動力を供給する。

 カンペ氏によると、燃料オイルの代わりに水素エネルギーで補助エンジンを動かせば、船舶から出る汚染物質を最大10%削減することになるという。首尾良く行けば、同社は船舶の主エンジンに水素エネルギーを運用する試験を19年までに開始する見通しだ。(ブルームバーグ Anna Hirtenstein)