越、FBが起業家に不可欠 かつて禁止、今や経済成長の手段に

 ベトナム政府がかつて共産主義体制の維持に向け利用を禁止してきたフェイスブック(FB)が、今や同国の起業家たちの成長の手段となった。ベトナム国民の大半は個人情報の共有や仕事上の人脈構築のために利用し、富を築く者もいる。政府はコンテンツの監視を続けるものの、経済活性化を狙う上でフェイスブックの重要性は高まる一方だ。

 ◆政府は自己矛盾的

 「政府はフェイスブックに対して自己矛盾的な立場にいる。経済成長の責任を担う省庁はその促進を望むが、国家に対する挑発行為の抑制を任務とする人にとっては目障りな存在だ」

 米・アセアンビジネス評議会のベトナム代表、ブー・トゥー・タン氏は指摘する。

 近年、ベトナムはシリコンバレーに拠点を置く企業のSNSサービスに門戸を開いてきた。この姿勢は中国がフェイスブックやグーグル、ツイッターへの接続を遮断し、微信やQQなど中国製SNSの成長を促進してきたことと対照的だ。ベトナム政府も国産SNSの構築を目指したが成功しなかった。

 従業員200人規模の口紅や香水の販売事業を構築したクアン・ダン氏の成功の秘訣(ひけつ)もフェイスブックだ。

 多くのベトナム人と同様、実店舗を持つことは望めないと思ったダンさんは商売のためにフェイスブックに頼った。高卒でわずかな貯金しかなかったが、SNS上で友人らに化粧品を売り込み、起業家として出発した。

 クアンさんは現在、ベトナム経済の中心地ホーチミン市で4つの化粧品店とスパ1店舗を営む。彼はフェイスブックのアカウントを通じ、20万人超のフォロワーをターゲットに事業を展開している。「フェイスブックが存在する限り、私の事業は成長し続けるだろう」と話す。

 ベトナムでは、フェイスブックは決済サービスを提供していない。顧客は代わりにクアンさんのページから商品を注文し、配送業者に代金を現金で支払う。同じパターンがフェイスブック上の何千件ものページで行われている。

 こうした利便性はベトナムで大きな強みだ。インターネット上の仮想店舗と実店舗の違いにかかわらず、同国の官僚制の下では起業に伴う手続きやコストが障害となる。事業者はサイト開設のための手数料を支払い、何カ月もかかる申請手続きを受け入れなければならない。曖昧なルールの下で事業閉鎖に追い込まれたり、違反による罰金を支払ったりするリスクもある。

 ベトナムでは35歳以下が人口の約60%近くを占める。調査会社Eマーケターによれば、同国のSNS普及率は世界上位に台頭してきた。

 調査会社コムスコアのアジア太平洋部門副責任者、ジョー・グエン氏は「ベトナム人は大半の東南アジア諸国に比べて多くの時間をSNSに割いており、事業を始める土台として利用する傾向が非常に強い。彼らは非常に起業家精神が旺盛で、誰もが何かの販売に乗り出したいと考えている」と語る。

 ベトナム政府は周辺国同様、慎重な態度を取っている。タイは国内のネット接続事業者に対し、フェイスブックと連携して違法コンテンツの削除を強化するよう要請した。インドネシアは同社やグーグル、ツイッターに対し、テロや人種差別、ポルノ、児童虐待に関連したコンテンツの監視と遮断を求めている。

 ◆有害アカウント削除

 ベトナムのフック首相によれば、フェイスブックは同政府が有害と見なす数百のアカウント削除に同意した。これは偽ニュース対策の一環だが、フェイスブックが政府の検閲に協力するという潜在的な問題も引き起こしている。

 それは米アップルが中国で直面した問題と同じだ。同社は中国の規制条件を満たさないアプリの販売停止を余儀なくされた。米クリエーティブ・ストラテジーズのティム・バジャリン社長は「それが言論の自由に反するとしても、事業展開する国の法律に従わなければ締め出されてしまう」と説明する。

 経済的境界の拡大を目指すベトナム政府は国際的なプラットフォームの有益性を認識している。政府統計によれば、2017年1~3月期にフェイスブックを利用して始まった事業は労働人口の2.3%に相当する約110万人の雇用を生んだ。

 フェイスブックがベトナム人の生活に浸透する中、政府による規制導入はより困難になっていくだろう。なぜならそうした措置が、時計の販売を手始めに、今やベトナム全土で展開するスパのチェーンを築いたカム・ブーさんらの起業家に与える影響は大きい。

 「フェイスブックは今やベトナム文化の一部であり、宝の山だ」とブーさんは語った。(ブルームバーグ Luu Van Dat)