緩和策終了なら財務悪化も 国債保有額440兆円 12年末の4倍

 「欧米と基本的には変わらない」。日銀の黒田東彦総裁は9日の再任記者会見で、金融緩和策を終わらせる「出口戦略」の難しさを問われ、淡々とこう答えた。しかし、金融専門家や市場関係者の間には異論がある。出口では金利が上昇し、日銀が保有国債から得る利息よりも、日銀にお金を預ける金融機関への利払いが上回り、日銀の財務が悪化する恐れがあるためだ。

 黒田氏は2013年に総裁に就任し、大規模な金融緩和の導入を主導した。17年末の国債保有額は12年末の約4倍の440兆円となり、国債を含む日銀の総資産は17年末時点で521兆円に達した。金融正常化に動く欧米の中央銀行と比較すると、国内総生産(GDP)比で2~4倍の大きさだ。

 資産が大きいほど、出口でのダメージは大きく、日銀の抱えるリスクは膨らんでいる。日本総合研究所の河村小百合上席主任研究員は「日銀の資産規模は手遅れに近いレベルにある」と警鐘を鳴らす。日銀が自力で損失を処理できなければ、政府が支援せざるを得ず、国民負担が発生する。

 お金を発行する日銀の財務が悪化すれば、日本円への信頼も揺らぎかねない。外国為替市場で急激な円安が進んで「輸入商品の価格が上がり、生活に影響が出る恐れがある」(ニッセイ基礎研究所の上野剛志シニアエコノミスト)。

 景気後退に備え、緩和縮小を急ぐべきだという見方もある。現時点では国内外ともに経済は好調だが、米中貿易摩擦への懸念から世界経済や金融市場の不透明感が強まっている。

 日銀の現行政策は、物価上昇率2%の目標実現に向けて、緩和のアクセルを目いっぱい踏み込んだ状態。民間シンクタンクのエコノミストの多くが2%目標の早期達成には懐疑的で、日銀内部からさえ、景気が腰折れした場合に「打つ手がない」との声が漏れる。

 当初2年の短期決戦で始めたはずの大規模緩和が長期化し、財政規律の緩みや銀行経営の圧迫といった副作用も拡大している。黒田氏は出口戦略について、物価目標の実現が遠いとして「時期尚早」と繰り返すが、説明を求める声がますます高まりそうだ。