同法22条には、「副総裁は(執行部の一員として)総裁を補佐する」と定められており、独断の行動が取りづらい。実際、現行法の下で正副総裁が衝突したのは追加利上げを決めた19年2月の会合のみだ。
さらに、議長案に反対すれば、「反執行部とみなされて実動部隊が動かなくなり、さまざまな情報を入手できなくなる」(日銀関係者)というデメリットもある。
若田部氏と同じ学者出身で、「量」にこだわってきた岩田規久男前副総裁も「金利」中心の金融緩和への変更に反対せず、日銀が2%目標の達成時期を先送りしても追加緩和を求めなかった。
実際、追加緩和の余地は乏しくなっており、日銀は2%の達成見通しを公表しなくなった。7月30、31日の次回会合では国内経済が堅調な中でも物価が上がりにくい要因を詳しく検証。30年度の物価見通しを引き下げる方向とみられ、かつてのようになりふり構わず2%を目指す“貪欲さ”は薄れつつあるようだ。
ただ、若田部氏は、就任会見で「(2%を目指して)必要ならば躊躇(ちゅうちょ)なく、追加緩和を行うべきだ」とも主張している。2%は「夢のまた夢」とまで揶揄(やゆ)される中、若田部氏はこのまま物価の伸び悩みを座視するのだろうか。いつ議長案に反対し、いつ追加緩和を提案するのか-。市場参加者は固唾をのんで見守っている。(藤原章裕)
■金融政策決定会合 日銀の金融政策の方針を決める会議。総裁と副総裁2人、審議委員6人の計9人が、金利の上げ下げなど次回会合までの政策運営を多数決で決める。定例会合は年8回で、各会合とも2日間の開催。1、4、7、10月の会合後には、物価上昇率と経済成長率の見通しを示す「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」を公表する。財務省と内閣府から政府代表が出席するが、議決権はない。