「簡単な交渉ではない」-。菅義偉官房長官の発言は今後の波乱を改めて予期させる。日米が来年1月中旬にも始める新たな通商交渉のことだ。日本政府内には、先行きに楽観的な見方もあったが、過去の日米貿易摩擦の二の舞になる懸念は否めない。
菅氏が交渉難航の可能性を示唆したのは10月17日の記者会見。米通商代表部(USTR)が16日に、日本との通商協定締結に向けた交渉の開始を米議会に通告したのを受けたものだ。菅氏は「攻めるべきは攻め、守るべきは守るとの観点から国益にあった形で交渉を進めたい」とも強調した。
実際の交渉入りは米貿易促進権限(TPA)法に基づき、通告から90日後以降となる。
そもそも交渉開始は9月下旬の日米首脳会談で合意した。日本側は物品関税に限定した交渉と説明。「物品貿易協定(TAG)」という聞き慣れない名称も持ち出した。
国内では、米国と2国間の自由貿易協定(FTA)交渉に入れば、要求をごり押しされかねないとの警戒感が根強いことが背景にあるとみられる。安倍晋三首相も「TAGはこれまで日本が結んできた包括的なFTAとは全く異なる」と訴えた。
日本は既に自動車など大半の工業製品の関税を撤廃しており、交渉では農産品の関税引き下げが焦点になる。打撃を受けかねない農家の反発が想定されるが、「農業で譲ることにはならない」と日本の交渉筋は懸念を一蹴する。首脳会談の共同声明に、日本の譲歩は過去に締結した経済連携協定(EPA)の内容が最大限との旨が盛り込まれたからだ。
「今回のスキームは良く考えられたものではないか」。日本の交渉筋はこう“成果”を誇る。
だが、交渉をめぐる日米の位置づけの食い違いが徐々に鮮明になりつつある。