ワシントン経済リポート

“毒薬入り”新NAFTAの行方 (1/2ページ)

 ■ねじれ米議会、批准へ漂う不透明感

 トランプ米大統領が通商政策の一大成果として誇る「米・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」の署名式が、今月末に開かれる予定だ。協定は、中国との貿易協定を阻止する「毒薬条項」や、不当な通貨安誘導を禁じた為替条項を盛り込み、米政権は貿易協定の「ひな型」と位置づけている。ただ、中間選挙の結果、下院の多数派を野党・民主党に握られ、協定発効に必要な議会承認(批准)に向けた先行きには不透明感も漂う。

民主の修正要求必至

 北米3カ国による北米自由貿易協定(NAFTA)によって米国から雇用が流出したとの見方から、トランプ氏が進めたNAFTAの再交渉をめぐり、米国がメキシコに続きカナダとも合意したのは9月末だった。

 1カ月を過ぎた11月6日の中間選挙では、上院で与党・共和党が多数派を維持したが、下院は民主党に奪われ、「ねじれ議会」の状態となった。政権・共和党は新議会で、USMCAの承認に関して民主党の意向をくまなければならなくなった。

 3カ国は30日に、20カ国・地域(G20)首脳会議が開かれるアルゼンチン・ブエノスアイレスでの署名式を準備しているが、USMCAの発効には全加盟国の批准が必要だ。

 批准に向けた米議会手続きの見通しについて、米通商専門家が一致するのは、民主党がUSMCAを議会通過させることと引き換えに、移民政策など個別の政策課題で政権・共和党から譲歩を勝ち取る交渉材料にするとの見方だ。

 米戦略国際問題研究所(CSIS)のウィリアム・ラインシュ氏は、民主党が、さらに「(USMCAの)合意事項のいくつかの修正」を求めると指摘。特に労働条件に関して手直しさせ、「協定の改善」をアピールすると想定する。

 来年1月に招集される新議会で、通商政策に関与する委員会にどのような民主党議員が就くのかがUSMCAの行方を左右するとみられる。下院で通商政策を所管する歳入委員会では、貿易小委員会の委員長に、労働や環境分野で強い姿勢を示すビル・パスクレル議員の就任が有力視されている。

中国包囲網への圧力

 一方、対中政策では共和、民主両党とも厳しい姿勢を貫く方針で一致しており、「与野党が中国に対する強硬姿勢を競い合う構図」(通商筋)が強まる可能性もある。USMCAに入った「毒薬条項」(ロス商務長官)は、加盟国が、中国などを念頭に置いた「非市場経済」の国と自由貿易協定(FTA)交渉を始める場合、協定内容を含め、他の加盟国への報告が義務づけられる。協定内容に反対する加盟国は、USMCAから脱退できる内容だ。

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