【高論卓説】逆風下の「中国製造2025」 進展の鍵握る他地域への波及効果

富士通総研経済研究所上級研究員のチョウ・イーリン氏(提供写真)
富士通総研経済研究所上級研究員のチョウ・イーリン氏(提供写真)【拡大】

 今月18日にAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議が幕を下ろしたが、米中の激しい対立で首脳宣言の採択が断念されるという前代未聞の事態となった。その背景には、米中の貿易摩擦をはじめ、ハイテク分野などで米国と中国の覇権争いが本格化しつつあることがある。筆者は今年5月、ある会議に参加するためワシントンを訪れたが、ハイテク分野やデジタル分野での中国の台頭に対する米国の危機感を強く感じた。

 中国では近年、デジタル技術で企業や産業を変える「デジタル・トランスフォーメーション」に国家として積極的に取り組んでいる。具体的には、5G(第5世代移動通信システム)やAI(人工知能)を起爆剤とする「デジタル技術の産業化」と、従来型産業の高度化を図る「産業のデジタル化」という2つの側面から推し進めようとしている。

 特に後者については、中国では消費分野のデジタル化が加速しているが、産業分野でデジタル化が遅れていることが顕著だ。そのため中国政府は2015年5月に、16年から25年までの10年間で実施する製造業戦略計画「中国製造2025」を打ち出した。これは13年にドイツが発表した「インダストリー4.0」の影響があったものの、中国自身が直面している生産年齢人口の減少や、人件費上昇といった課題の解決に対するアクションだった。また、世界的なデジタル化の潮流を積極的に受け入れ、ハイエンドの製造業育成で産業競争力の向上を図りたいとの思惑が一目瞭然だった。

 「中国製造2025」は進展をみているのだろうか。中国の製造業を代表する地域といえば、上海を中心とした長江デルタと、南部の広東省を中心とした珠江デルタがある。その中で唯一、国家製造業転換のパイロット拠点になったのが珠江デルタにある広東省仏山市だ。仏山は常住人口が約765万人、17年の域内総生産は9500億元(約15兆2000億円)と広東省内では深セン市と広州市に次ぐ。セラミックや新型ディスプレー、白物家電メーカーの集積地として知られるが、近年はロボット導入やAI活用などを通じ、製造業のスマート化を積極的に推進。工場の自動化と無人化が進んでいる。

 東北地域に位置する遼寧省瀋陽市にある「新松ロボット(新松機器人自動化)」は、豊富なロボット製品を擁する国産ロボット領域のトップ企業だ。中国科学院瀋陽自動化研究所の研究者らが00年に設立した会社で、09年に上場を果たした。研究・開発を重視する姿勢は今も変わっておらず、社員の半数以上は技術者だという。今年2月の平昌冬季五輪閉幕式で行われた「北京へ」のパフォーマンスで、同社のパンダロボットが登場して注目された。これまで顧客には自動車メーカーが多かったが、「中国製造2025」の追い風を受け、製造業や物流のようなサービス業などさまざまな業界からの需要が高まっているという。

 米中対立で、補助金が投入される目玉の産業政策である「中国製造2025」は度々批判を浴びている。その中で軌道修正を迫られるなど逆風下にあるように見えるが、マスコミでの宣伝を減らした上で、既に進展を見ている地域や企業をモデルにし、他地域へ波及効果をもたらすことが、今後の「中国製造2025」の展開方法だと考えられる。

【プロフィル】趙●琳

 チョウ・イーリン 富士通総研経済研究所上級研究員。2008年東工大院社会理工学研究科修了、博士(学術)。早大商学学術院総合研究所を経て、12年から現職。麗澤大オープンカレッジ講師なども兼任。中国遼寧省出身。

●=偉のにんべんを王に