【迫るTPP】(2)牛肉市場縮小で輸出に活路 畜産業者、高齢化で農家廃業も

 広々とした係留施設にトラックから和牛を丁寧に運び出す。「引っ張ったり、たたいたりしない。欧州への輸出にはアニマル・ウェルフェア(動物福祉)の徹底が条件」。鹿児島県曽於(そお)市で食肉の製造や販売を手掛ける「ナンチク」の宮里利郎輸出促進室長は黒く輝く毛並みの牛を見つめた。

 この施設は同社が欧州輸出のために、2017年に数億円費やして改修した。衛生管理や牛のストレスを減らす環境整備など、数多くの検査項目をクリアする必要があるためで、現在は輸出に必要な認定待ちだ。宮里室長は「設備の導入や維持に膨大な費用がかかる」と漏らす。

 世界中の食卓視野

 ここまで輸出に力を入れるのは、国内市場が人口減で縮小し、大きな伸びが見込めないためだ。ナンチクは1990年に日本初の対米輸出工場の認可を受けた後、輸出先を増やし、17年度は香港やシンガポールなど6カ国に前年比4割増の325トンを輸出。日本から輸出する牛肉の約1割を占めるまでになった。

 各国の商談会にも積極的に参加し、今年7月にはオーストラリアへの輸出も始めた。「日本とは反対に世界は人が増え続ける。『口』は海外にある」。同社の北野良夫専務の目は世界中の食卓に向いている。

 国は19年に農林水産物・食品の輸出額を1兆円にすることを目標に掲げる。農林水産省によると、牛肉の18年上半期の輸出額は108億円で前年同期比で4割増えた。牛肉を輸出の重点品目と位置付ける農水省は「霜降りの和牛は世界でも高評価だ」と自信を見せる。

 30日に発効する米国を除く環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)や、その後の欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)では、参加国の牛肉関税は撤廃方向に向かう。ただ、ナンチクのように海外に活路を見いだせるのは一握りだ。多くは国内での販売にとどまるが、TPPや日欧EPAの発効後は現在38.5%の牛肉の関税が最終的に9%まで下がり、オーストラリア産などの安価な牛肉が国内に大量に入ってくる見通しだ。

 米国産も脅威

 9月には日米が農産物の関税を含む新たな通商交渉入りで合意した。米国が狙う牛肉の関税引き下げの交渉で日本が大幅な譲歩を迫られた場合、米国産牛肉も脅威となる。

 国内に目を向ければ高齢化による肉牛農家の廃業が止まらない。5年前は約6万戸超だったが、今では5万戸を割り込んだ。牛肉関税の引き下げの影響で農家の減少が加速する恐れもある。

 「生き残るためには輸出しかない」。北野専務は繰り返した。

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