【高論卓説】貿易問題で揺れる株式市場 米は経済成長より安全保障優先

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 17日の米ニューヨーク株式市場の場中、米政府が対中国関税の一部廃止もしくは全廃を考えているという観測が市場に流れた。すると、その日低迷していた株式市場はこの情報に反応して大きく切り返した。今月末の30日から米中閣僚会議が予定されている。ニューヨーク市場ではそれまでの間、この手の思惑が交錯することになる。

 一方、中国側では、全国人民代表大会(国会に相当)常務委員会によって外資企業への違法な干渉を制限する外商投資法が検討中で、これも異例な早さで審議され、閣僚会議への手土産になるのではと市場では考えられている。米中どちらも一歩も引かぬという、かたくなな姿勢を保ちながらも双方ともに歩み寄る材料も準備されている。貿易の縮小はどちらにとっても、もろ刃の剣、できるだけ避けたい。

 では、米中閣僚会議で世界経済を巻き込む米中貿易問題が解決へと向かうのかといえば、そうはいかない。なぜならば米中貿易問題の根本は安全保障上の問題であり、米国側が意識する中国による覇権交代の危機にあるからだ。

 IoT(モノのインターネット)の基盤となる高速通信の5G(第5世代移動通信システム)技術。これはウエアラブル端末や、自動車の自動運転実用化などの高速で大量の情報量を必要とする技術革新の基礎となる通信技術である。この5Gのインフラを、どの国の製品が支配するかは経済成長とともに国家安全保障上の重要な問題である。

 今回、中国企業ファーウェイ創業者の娘でCFO(最高財務責任者)の孟晩舟(メン・ワンツォウ)氏が、米国政府の依頼によってイラン輸出関連の疑惑でカナダ政府に逮捕されて一躍有名になった。この事件は象徴的である。

 ファーウェイは5G技術では現在最も技術的優位な位置にある会社だと考えられている。しかし、その一方で中国政府や軍と一体化しているともみられ、スパイ疑惑がつきまとう。

 米国は2012年の下院情報特別委員会の報告書で同社を「安全保障上の脅威」として認定して以降、実質上、通信インフラから同社を閉め出しているが、今度は同盟国にも呼び掛けた。確たる証拠こそ示されていないが、システムを利用したスパイ活動疑惑があるというのだ。英国、日本、オーストラリア、ニュージーランド、それにドイツも米国に追随することを決めた。

 こうして米国を中心とする西側がファーウェイを閉め出そうとする中、中国が友好国との範囲の中で優位にある5G技術を駆使して、通信インフラを安価に素早く普及させれば、両者の経済成長や技術革新に大きな差が出て、西側が劣後するのではないかとの懸念する声も聞こえる。

 しかし、そうした理由で米国がファーウェイの5Gインフラの展開を受け入れることはない。西側諸国が同社を採用しないことによってIoTの主役である豊富なモノとのアクセスは制限され、同社の技術革新を遅らせるだろう。

 現状では米国の政策上の優先順位は明らかで、(1)安全保障(2)経済成長-である。従って、中国との貿易問題は常に安全保障に劣後するのであって、安全保障を脅かさない範囲の中での妥協点が模索され続けることになる。株式市場にとって理想的な自由貿易は実現しない一方で、当面は壊滅的な状況も起こりそうにない。

【プロフィル】板谷敏彦

 いたや・としひこ 作家。関西学院大経卒。内外大手証券会社を経て日本版ヘッジファンドを創設。兵庫県出身。著書は『日露戦争、資金調達の戦い』(新潮社)『日本人のための第一次世界大戦史』(毎日新聞出版)など。