【中国を読む】中国、超高齢社会見据え介護対策急務 野村総合研究所・下松未季

日中介護サービス協力フォーラム。両国政府関係者も多く出席した(経済産業省ウェブサイトから)
日中介護サービス協力フォーラム。両国政府関係者も多く出席した(経済産業省ウェブサイトから)【拡大】

  • 野村総合研究所下松未季

 日本が超高齢社会といわれて久しいが、近年中国でも高齢化が急速に進展している。2017年時点の中国の60歳以上の高齢者比率は17.8%程度だが、30年には25%、50年には35%にも上るといわれるほどである。今後は日本をしのぐ勢いで高齢化が進むと想定されており、中国でも介護サービス提供体制の確保が喫緊の課題となっている。

日本のノウハウ期待

 もともと親は子供が世話をするもの、という儒教的な風潮が強かった中国だが、一人っ子政策による若年層の減少や核家族化の影響もあって、家族介護の限界が露呈しつつある。とくに都市部では、介護施設などに親を預けるケースも増え始め、介護サービスへのニーズが高まってきている。

 しかし、介護サービス体系や制度はいまだ発展途上であり、介護サービスを提供できる民間事業者の数も十分ではない。高齢化に対応するためにいち早く介護に関する制度やサービス体制を整備・普及させた日本のあり方、ノウハウに対する期待が高まっている。

 こうした背景のもと、中国の高齢化対策へ貢献するとともに、日本の介護サービス事業者や福祉用具メーカーなどの中国展開を後押しすることを目指して、18年10月23日に日本の経済産業省と中国国家発展改革委員会との共催で「日中介護サービス協力フォーラム」が行われた。

 日中平和友好条約締結から40年という記念の日に開催された同フォーラムは、政府関係者や有識者による講演、介護関連事業者のプレゼンテーション、ビジネスマッチングを盛り込み、弊社も事務局として企画・運営に携わった。

 日中ともに当初の想定を大きく上回る参加希望者が殺到し、一部人数の制限を設けたほどの反響だった。

 両国政府関係者や学術関係者のほか、日本企業の関係者127人、中国企業の関係者241人が参加した。それだけ日中双方において介護分野における協力の必要性が認識されているとともに、日本の持つ知識や技術への注目度が高まっているということだろう。

 実際、今回のビジネスマッチングで得られたコネクションから実ビジネスに向けた交渉が進んでいるという声も挙がっており、日本の事業者にとって中国マーケットは大きなビジネスチャンスがあることを改めて確認する機会となった。

事業展開への課題

 中国介護市場のポテンシャルの高さはうかがえるものの、日本の事業者が中国国内で事業を展開するにはまだ課題が多い。

 代表的なものは収益性の問題だ。中国は日本のように介護保険制度が整備されているわけではない。北京をはじめとする15都市で試行が進んでいる保険制度も、日本の制度とは様相が異なり、わずかな支給が出るにとどまる。一部高級な施設も存在するものの、平均的には介護サービスへの対価は低く、収益性を担保するには工夫が必要になる。

 介護サービスにかかる理念の共有もまた重要な課題である。現地の人材を育成するには、日本の事業者が持つ、高いサービス品質の背景にある理念を浸透させる必要があるが、そこに苦戦しているといった声が聞かれる。

 また、利用者側もそうした理念を訴求しないケースも見受けられる。例えば、日本の事業者は自立支援を重視し、身の回りのことを自分でできるように促すが、文化の異なる中国では、サービスが行き届いていないと感じられることもあるという。

 今後、中国での介護事業の展開では、文化や考え方の異なる現地の事業者や人々にも、日本の事業者が目指す理念を受け入れてもらえるようなサービス設計が必要となる。

 中国展開には課題はあるものの、日本は介護先進国としても注目されている存在であり、中国においても日本のノウハウに対するニーズは高い。中国政府側もサービス拡充に向けた取り組みには積極的であり、日本の事業者にとっては大きなビジネスチャンスとなるだろう。

【プロフィル】下松未季

 したまつ・みき 東大法卒。2016年野村総合研究所入社。グローバル製造業コンサルティング部コンサルタント。医療・介護領域の制度調査や新規事業立案などに従事。25歳。東京都出身。