主張

令和の経済 低迷抜け出す挑戦の時だ デジタル変革に乗り遅れるな

 令和時代を迎えても、経済はすっきりしないままである。

 戦後最長の景気回復局面だといわれても実感は乏しい。むしろ米中摩擦や中国経済の低迷が、経済にブレーキをかけるのではないかという懸念が先に立つ。

 経済環境ががらりと変わった転換期でもある。

 高齢化や人口減に対応し、新たな成長分野を見いだす産業の新陳代謝は時代の要請だろう。海外では巨大IT企業が国境を易々(やすやす)と超えて成長する一方、反グローバリズムのうねりが既存の通商秩序を揺るがしている。

 こうした構造変化にいかに対応するか。令和の世に求められるのは、懸案を先送りせず、発展への基盤を再構築することである。

 ≪デフレの残滓の払拭を≫

 今年1月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に出席した安倍晋三首相は、居並ぶ世界の要人を前に「日本にまつわる敗北主義は、敗北した」と語った。

 日本はもはや成長できないなどとする、悲観論は過去のものになったという意味である。平成日本を覆ってきた閉塞(へいそく)感は完全に払拭できたと言いたいのだろう。

 だが、本当にそうなのか。

 ここ数年、多くの企業が過去最高水準の収益をあげ、雇用も改善した。その割に賃上げや設備投資が盛り上がらないのは、企業の慎重姿勢がなくならないためでもある。将来の景気悪化を極度に恐れるデフレ期の残滓(ざんし)である。

 消費者の財布のひもも、なかなか緩まない。だから物価が伸び悩み、日銀は非常時の金融緩和政策を終えられない。再びデフレに戻る恐れはないか。この不安が消えないから、政府もデフレからの完全脱却を宣言できないでいる。

 振り返れば、平成経済は自信喪失の連続だった。バブルのさなかに幕を開けたが、当時の狂騒は徒花(あだばな)にすぎず、これが崩壊すると低迷から抜け出せなくなった。

 かつての成功体験に引きずられて、官も民もなすべき改革が遅れた。金融機関の不良債権問題の根深さを見誤り、解決に多くの時間を要したのが典型である。

 高齢化で社会保障費の膨張が避けられないのに、財政の立て直しどころか悪化させ、その対応を先送りしてきたのも同じだろう。

 すでに国内総生産(GDP)は中国に抜き去られた。それでも世界3位の大国だと、うぬぼれない方がいい。1人当たりGDPは経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で20位なのである。

 欧米に追いつき、追い越そうとしたのが戦後の日本だった。それが一つの頂点を極めた途端に方向感を見失い、再び世界を追いかける立場に戻った。

 日本は真の意味で敗北主義と決別し、世界の中で輝きを取り戻せるか。令和こそ再挑戦の時代なのだと認識しておきたい。

 ≪繁栄促す技術を極めよ≫

 その際に重要なのがインターネットや人工知能(AI)、ビッグデータなど、21世紀以降の技術革新が著しいデジタル分野だ。

 米中が覇権を争うこの分野で日本企業は大きく出遅れた。コンピューターや半導体、家電などのハイテク分野で日本が世界を席巻したころとは隔世の感がある。

 グーグルやアップルなど、プラットフォーマーと呼ばれるIT企業ばかりが巨額の利益を得る現状を考えれば、先端技術のキャッチアップや、独創的な製品、サービスの開発を急ぐべきは当然だ。

 併せて、デジタル技術を活用した営業や販売の効率化、新規顧客の開拓なども図りたい。これらが日本の労働生産性を高め、潜在成長率を引き上げるからだ。

 経済財政白書によると、日本はAI関連の特許件数やロボット技術は高水準だが、ITに対応した組織づくりや人材投資が弱い。先進的な事業モデルによる起業が少ないことも特徴である。

 これらを政策的に後押しするため、規制緩和などの取り組みを一段と強めなければならない。

 デジタル技術がもたらす負の影響にも留意する必要がある。例えばAIが仕事を奪うことへの懸念だ。AI時代に対応できるかどうかで社会が二極化すれば、格差拡大が深刻化する恐れがある。

 技術は社会に変革を促す道具立てにすぎない。問われるのは、これを生かして経済的な繁栄や暮らしの向上につなげられるかだ。新たな時代を迎えた今、改めて銘記しておきたいことである。

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