参院選の焦点のひとつ、アベノミクスの金看板である日本銀行の異次元緩和が袋小路に陥っている。自ら設定した2%の物価上昇目標は達成のめどが立たず、緩和策を手じまいする「出口」は年々遠ざかる。米中貿易摩擦を背景に各国の中央銀行が景気下支えの姿勢を強める中、今月29、30日の金融政策決定会合では、出口どころか、政策指針の修正など追加緩和を講じるとの観測もある。長引く超低金利は年金基金の運用難などを通じ生活者にも跳ね返りつつあり、対応策の検討が求められる。
「少なくともだから、2020(令和2)年春より先までということもあり得る」
日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁は6月20日の記者会見でこう述べ、現行の超低金利政策を「少なくとも20年春まで」続けるとした政策指針を修正する可能性に言及した。
実際、日銀が来春にも金利引き上げなどの出口戦略に踏み切るとみる市場関係者は皆無だ。日銀の推計では国内の物価上昇率は21年度でも1・6%止まり。13年4月の異次元緩和導入時には「2年で達成する」と宣言した2%目標だが、今では実現時期のめどすら示されない。
一方、日銀に先んじて利上げを続けてきた米連邦準備制度理事会(FRB)は早ければ今月30、31日開催の連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げに転じそうだ。欧州中央銀行(ECB)も利下げを辞さない構えをみせている。
日銀が四半期に一度の経済・物価見通しの再点検を行う次回決定会合はFOMCの直前。政策指針を「20年末まで」などに修正し、一層の緩和長期化をアピールする追加緩和を講じるのではとの見方もある。FRBが利下げすれば日米の金利差が縮小し円高が進みかねず、事前に牽制(けんせい)する必要があるというわけだ。
終わりが見えない異次元緩和だが、民主党政権時代の歴史的円高を転換し、トヨタ自動車など企業の利益を過去最高水準に押し上げた功績は大きい。
ただ、現行の超低金利政策は景気刺激に向けた非常措置だったはず。予想以上の長期化は預金者の金利収入の減少に加え、年金基金の運用利回り低下で将来的な給付水準が想定を下回る恐れもあるなど家計にもしわ寄せがいく。異次元緩和の負の側面がこれ以上顕在化する前に出口に向けた道筋を検討する必要がある。(田辺裕晶)