国内

「マジック」と「副作用」…10月末に退任のドラギECB総裁、8年間の功罪 

 【ロンドン=板東和正】ユーロ圏経済が苦境に陥る中、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が10月末に8年間の任期を終えて退任する。金融緩和に前向きな発言と実行力で市場を安定させる手腕は「ドラギ・マジック」と称賛されたが、最近はECB内で異論が噴出。超低金利が長引くことで金融機関の収益を圧迫する「副作用」をもたらす課題を残した。

 「自分の任務に常に最善の方法で尽力してきた」

 最後のECB理事会となった24日。ドラギ氏は、終了後の記者会見でこう任期を振り返った。

 米紙ウォールストリート・ジャーナルなどは、欧州債務危機にあえいだユーロ圏を「(ドラギ氏が)成長軌道へと導いた」と評価する。

 2011年11月に就任したドラギ氏は12年7月、「ECBはユーロ圏を守るためにできることは何でもやる」と市場への介入を約束し、金融不安を沈静化した。実際、14年6月には、ECBが民間銀行からお金を預かる際に手数料を取る「マイナス金利政策」を世界の主要中銀で初めて導入。ユーロ圏内の国債を買って市場にお金を流す「量的金融緩和策」も実施するなど、大胆な金融政策に取り組んできた。

 欧州連合(EU)統計局が発表した今年8月のユーロ圏失業率は7・4%で、08年5月以来の低水準となった。さらに、英国のEU離脱をめぐる先行き不透明感が漂う中、今年9月には3年半ぶりのマイナス金利幅拡大と昨年末に終了した量的緩和策の再開を決めた。

 一方、ECB内ではドラギ氏への不満もくすぶってきた。量的緩和策の再開などを決めた9月の理事会では、主要国のドイツやフランスなどが反対。再開に反対したドイツ出身のラウテンシュレーガー専務理事は、任期を全うせず10月末に退任する。

 ドラギ氏の総裁任期中、ECBが一度も利上げしなかったことでユーロ圏では超低金利状態が続き、銀行は、利ざや(貸出金利と預金金利の差)を稼げず、収益悪化を余儀なくされた。「欧州最強」と呼ばれたドイツ銀行は今年、1万8千人の削減を発表したが、拡大し続けるマイナス金利政策も経営不振に拍車をかけた。

 菅野泰夫・大和総研ロンドンリサーチセンター長はこう指摘した。

 「ドラギ氏はドイツの金融機関の問題に具体的な行動を起こさなかった。9月の金融緩和でドイツの怒りは頂点に達した」

 ECB内では金融緩和をめぐる意見対立が激しさを増すとみられ、11月1日に就任するラガルド次期総裁は、難しいかじ取りを迫られる。

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus