海外情勢

指導者死亡 打撃与えるも「IS後」のテロ脅威、むしろ拡散か

 【イスタンブール=佐藤貴生】米政府がイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)の象徴的存在だったバグダーディ容疑者の死亡を確認したことで、組織としてのISの影響力が大きく減退することは間違いない。ただ、ISの戦闘員らはイラクとシリアにおける拠点の陥落に合わせ、世界各地に散ってテロ組織とのネットワークを強化してきたとされる。「IS後」の国際的なテロの脅威は、むしろ拡散している危険性がある。

 海外メディアはこれまで、IS中枢の幹部にはフセイン政権期のイラクの陸軍士官らが含まれているほか、バグダーディ容疑者の下に10人前後で構成する評議会を設置し、集団指導体制を取っている-などと伝えていた。実態は不明だが、ISの精神的支柱だった同容疑者の死亡が、中枢の体制に大きな打撃を与えたことは明らかだ。

 半面、世界各国は今後、ISの戦闘員らが構築を目指す国際規模のテロネットワークをどう封じ込めるか、という課題に直面する公算が大きい。アジアやアフリカではISに忠誠を誓った組織がいくつも存在しており、国連は今夏、ISが数百億円規模の資金を基に、こうした組織との連携強化を進めているとの報告書を出した。

 4月にスリランカで起きた連続テロでは、IS戦闘員らが同国を出入りしているといった情報が寄せられながら、政府が対策を怠ったとの観測が出た。国際的なテロ組織の連携が強化されれば、こうした脇の甘さを突いてくる懸念がさらに強まる。

 トランプ米大統領は27日の記者会見で、バグダーディ容疑者の死亡直前の様子を「恐怖とパニック」にとらわれていた-などと話した。「カリフ」(預言者ムハンマドの後継者)を自称して求心力を保ってきた同容疑者に関するこうした描写は、IS戦闘員や信奉者の怒りに火を注ぐ可能性もあり、報復テロも懸念される。

 バグダーディ容疑者の死亡は、ISにとって「致命傷」となる公算が大きい。しかしそれは、新たな次元の国際テロネットワークとの戦いの始まりでもある。

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