経財論

個人が納得するデータ活用

 経団連デジタルエコノミー推進委員長 篠原弘道氏・井阪リュウ一氏

 「Society(ソサエティー) 5.0」は、デジタル革新と多様な人々の想像・創造力の融合によってさまざまな社会課題を解決して「人間中心」の経済社会を目指す取り組みである。その実現に向け鍵となるのが、個人データを含めたデータ活用であるが、データ連携基盤構築の遅れや、プライバシー侵害・サイバーセキュリティーをめぐる課題の顕在化など多くの課題が存在する。

 こうした課題を克服し、個人が納得・信頼できる個人データの保護・活用を進めるためには、政府による環境整備と企業による個人データの適正利用が不可欠である。

 官民一体で環境整備を推進

 個人データ活用の環境整備に向けては、まず、データ活用の前提として、企業が必要なデータを収集できる環境整備が不可欠であり、オープンデータ、データ連携基盤、情報銀行などの「データ流通・活用基盤の構築」に向けた取り組みを官民一体で進める必要がある。

 また、個人の納得・信頼を得た上で企業が個人データを活用するためには、法規制、民間の自主的な取り組み、個人データの活用を促すインセンティブをバランスさせたアプローチが重要である。

 個人情報保護法の見直しで検討されている個人情報の利用停止・消去、あるいは、課徴金の導入や罰則の引き上げのようなペナルティー強化については、企業のデータ活用を過度に抑制する懸念があることから、政府は慎重に検討すべきである。

 また、個人情報の一体的な保護・利活用促進の観点から、個人情報保護委員会が官民の個人情報保護法制を一体的に担うべきである。

 さらに、デジタル・プラットフォーム事業者などに対する過度な規制強化はデジタル分野全体のイノベーションの停滞につながり得ることから、新たな規制の検討に当たり、政府はプライバシー保護とイノベーション促進のバランスに配慮してもらいたい。

 調和の取れた国際制度構築

 国境を超えたデータの自由な流通の確保に向け、政府は「データローカライゼーション規制」の緩和・撤廃に向けた働きかけ、越境データ流通の確保に向けた国際的な枠組み作りを行う必要がある。安倍晋三首相は、大阪市で開催された20カ国・地域首脳会議(G20サミット)などで、「DFFT(Data Free Flow with Trust)」のコンセプトを発信し、“大阪トラック”におけるデータ流通および電子商取引のルール作りを求めている。経団連としては、わが国主導で、国際的に調和の取れたデータ流通などのルール整備が進捗(しんちょく)することを期待する。

 信頼醸成が企業価値を創出

 経団連は、政府への要望を取りまとめ、10月15日に提言「Society 5.0の実現に向けた個人データ保護と活用のあり方」を公表した。もっとも、個人が納得・信頼できる個人データの活用を進めるためには、こうした政府による環境整備に加え、経営者が、個人データの保護やサイバーセキュリティー対策を個人の安心・安全を獲得することで中長期的な企業価値の創出に寄与するものと認識した上で、個人データの活用に主体的に取り組む必要がある。

 そこで、経団連は、企業が個人の納得・信頼の下で個人データの活用に取り組む姿勢を示すため、提言と併せて「個人データ適正利用経営宣言」を策定した。経団連としては、この経営宣言を踏まえ、企業・経営者が、個人の安心・安全を確保したうえで個人データの活用を進めることにより、社会的な理解が醸成されることを期待する。

【プロフィル】篠原弘道

 しのはら・ひろみち 早大理工学研究科修士課程修了。1978年日本電信電話公社(現NTT)入社。取締役、常務、副社長などを経て、2018年会長。今年から経団連副会長、デジタルエコノミー推進委員会委員長を務める。東京都出身。

【プロフィル】井阪リュウ一

 いさか・りゅういち 青山学院大法卒。1980年セブン-イレブン・ジャパンに入社し、2009年に同社社長に就任。16年からセブン&アイ・ホールディングス社長。18年から経団連審議員会副議長、今年からデジタルエコノミー推進委員会委員長を務める。東京都出身。

●=隆の生の上に一

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