海外情勢

レバノンの反政府デモ、見えぬ着地点 各宗派で割れる要求

 中東レバノンで反政府デモが始まってから1カ月が過ぎた。不況と汚職への怒りを背景に全土に広がり、ハリリ首相は内閣退陣を表明したが、参加者は「革命」「第2のアラブの春」を訴え抗議をやめない。多様な宗教・宗派ごとに権力を分け合う政治構造が根付いており、市民の要求にも隔たりがある。デモは着地点を失いつつあり、終わりが見えない。

 雷雨の15日夜。20代のフセイン・ガンドールさんはいつものように、仲間と首都ベイルートの首相府近くに立って抗議を続けた。

 イスラム教シーア派の家庭で育ち、昨年9月に卒業した大学では生物学を専攻した。だが働き口はなかった。就職した友人の給料は月5万円ほど。「もう政治は信じない」。新内閣は実務者でつくるべきだと話した。

 18の宗教・宗派が混在するレバノンでは、国会の議席を宗派ごとに分配する。大統領はキリスト教マロン派、国会議長はイスラム教シーア派、首相はスンニ派から選ぶ。1990年まで15年続いた内戦の後、紛争を避けるために定着した権力分散の仕組みだ。

 各地のデモには宗派を超えて人々が集まる。ただ参加者の要求はそれぞれ違う。当初は「宗派に基づいた政治」の撤廃を求める声が目立った。今では、キリスト教中心の自由愛国運動やシーア派のヒズボラ(神の党)の支持者から、新内閣に自身の政党の参画を求める声が上がる。

 ベイルート市街を望む丘で14日、30代のアラ・アブファハルさんの葬儀が営まれていた。12日夜、デモに家族で参加し、強制排除を試みた兵士に撃たれた。地元テレビはあおむけに倒れたアラさんの横で「お父さん、お父さん」と泣き叫ぶ長男オマル君の映像を連日流し、葬儀には数百人が詰め掛けた。

 参列者はアラさんを「革命の犠牲者」と呼び、「新たな体制を」と声を張り上げた。妻のララさんは「夫はより良い生活のためにデモに参加した。政治的な意味はなかった」とかすれた声で話した。

 一方、葬儀にはイスラム教ドルーズ派のアラさんが支持した社会進歩党の有力政治家たちの姿があった。参列者は彼らに拍手を送り、歓迎していたように見えた。親族の一人は会場の隅で言った。「政治全体への不満はあっても、自分の宗派の政党は支持し続けるということだ」(ベイルート 共同)

【用語解説】レバノン

 東地中海に面し、キリスト教とイスラム教のスンニ派、シーア派など多様な宗教と宗派が共存するモザイク国家。首都ベイルートは「中東のパリ」と称され、中東の経済の中心地として栄えたが、1975~90年の内戦で経済システムが崩壊。債務残高は国内総生産(GDP)比約150%と深刻で、若者の失業率も高い。人口は約600万人。ほかに100万人近いシリア難民と40万人以上のパレスチナ難民を受け入れている。(ベイルート 共同)

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