国内

WTOを揺らすアメリカ 上級委員会の越権を問題視、中国への不満も背景に

 【ワシントン=塩原永久】米政府はWTOの上級委員会の補充人事に反対する理由について、公式には「委員会の越権行為が是正されないため」と説明している。ただしトランプ米大統領はWTOの自由貿易体制のもと、米国が中国などの貿易相手に「食い物にされてきた」とし、過去にはWTO脱退にも言及している。トランプ氏の不信感がWTOを機能不全に陥らせる事態を招いたともいえ、通商問題における国際協調が大きく揺らいでいる。

 「上級委員会のルール無視について、米国は深刻な懸念を表明してきた」

 ジュネーブでの9日のWTO会合で、シェイ米国大使はそう不満を表明した。

 シェイ氏は上級委員会が「独立した国際裁判所」のように振る舞い、強い権限を行使するようになったと指摘。通商関係者に「死亡宣告」とも呼ばれた同委の機能停止も辞さず、委員補充人事に反対して是正を求めると強調した。

 トランプ政権は2年前から委員補充人事に反対してきたが、上級委の「越権行為」はブッシュ、オバマ両政権も問題視してきた。加盟国の紛争解決を目的とする上級委の判断が「判例」のように加盟国の行動を縛り、米国内法の解釈にも言及するようになったとして警戒感を強めてきた。

 米国は伝統的に主権を国際機関に譲り渡すことに慎重だ。「国際裁判所」として上級委の権限を強化したい欧州連合(EU)などとは異なり、「米国はWTO設立時にそこまでのレベルの権限を認めていない」(元米政府高官)とする。

 また2001年の中国のWTO加盟も米国の不満をかきたてる要因となった。中国などによる産業補助金問題にWTOが対策をとれていないとみているためだ。トランプ氏は中国が自由貿易体制に“ただ乗り”しているとして対中強硬策を展開。中国に知的財産権保護の徹底や補助金撤廃を要求してきた。さらに昨夏には米メディアに「WTOがしっかりやらないなら、脱退するかもしれない」とさえ口にした。

 WTO改革の必要性が問われる一方、01年からの新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)は停滞している。WTO設立の成果である紛争処理機能が停止すれば、1930年代にみられた自国優先の保護主義や、一方的な関税発動が横行し、「力の強い者が勝つジャングルの掟に逆戻りする」(欧州通商筋)との懸念も聞かれる。

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus